第8章74【揺らぐ記憶、燃ゆる刻印(前半)】
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瓦礫の街に、夕日が滲んでいた。
王都南区に仕掛けられた白塔連盟の襲撃――仮面の刺客たちとの戦いを終えた後も、かおるの胸に残っていたのは、セラが口にした一つの言葉だった。
「――仮面の裏に、転生者がいるかもしれない」
その言葉は、胸の奥に沈めていた疑念を再び浮かび上がらせた。
“転生者狩り”――かつてこの世界に流れ着いた者たちを、白塔連盟が“素材”として狙っている。もしそれが事実なら、自分も、アリシアも、そして……あの男、カナメすらもその標的になっている。
「……セラ。お前、全部知ってるわけじゃないな?」
「ええ。でも、少しずつ見えてきた。だから、今夜一つだけ確かめたい場所があるの」
セラの瞳は、真っ直ぐにかおるを射抜いていた。
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陽が沈むと、王都の地下遺跡に続く隠し通路へと足を運ぶ。セラはかおるとアリシアを案内しながら、静かに口を開いた。
「この遺跡、“エクシリアの断層”って呼ばれているの。元々は帝政時代の避難壕。でも、今は白塔連盟の拠点の一つ」
「地下で何をしてるんだ、あいつら……?」
「転生者の“記憶抽出”よ。魂に刻まれた前世の情報を引き出すための……残酷な技術」
アリシアが眉をひそめた。
「そんなことが可能なの……?記憶って、個人の核みたいなものじゃない」
「でも、できてしまった。だから、カナメが操られていた可能性も……十分にある」
かおるの拳が震えた。
カナメは、自分がこの世界で初めて信じた仲間だった。その彼が、記憶を書き換えられて敵に回っていたとしたら――。
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地下通路を進むにつれて、空気が変わっていく。
湿り気を帯びた石の匂い。霊脈が乱れ、薄く光を放つ魔力の粒子。かおるは剣に手を添え、周囲を警戒しながら進んだ。
「……待って。いるわ」
セラが囁いた直後、前方から響く不自然な靴音。
仮面の兵が四体、通路の奥から現れた。
「正面突破する!」
「ええ、アリシア、援護を!」
「はい、最大出力でいくわ!」
かおるが斬り込むと同時に、アリシアが雷光を放ち、セラが一体を背後から斬り伏せる。
敵の動きには、もはや人間の“揺らぎ”がなかった。まるで人形のように戦う仮面兵。だが、かおるは一体の仮面兵と剣を交えたとき、はっきりと“視線”を感じた。
「……お前、まさか――!」
仮面の下で、一瞬だけ揺れた瞳。それはかつて、戦場で背中を預け合った、カナメのそれだった。
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戦闘を終え、仮面を割っても、そこにあったのは見知らぬ顔――だが、その瞳だけが、何かを語っていた。
「魂の欠片だけが……残ってるのか」
セラは、沈痛な面持ちで頷く。
「人格の一部が、術式によって抽出・再構成され、仮面の中に“写し”として残されるの。これは……死体ではなく、“擬似転生体”」
「なにそれ……」アリシアが絶句する。
「だから、カナメ本人じゃない。でも……この技術の元になったのは、“誰かの記憶”」
「誰の、記憶なんだ」
「……おそらく、かおる。あなたの記憶よ」
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深層部へと進むと、薄暗い広間に辿り着く。
中央には魔法陣と多数の記憶結晶。そして、それらを操作する一人の男の姿があった。
その背には、漆黒の仮面。
声が響く。
「やはり来たか、“かおる”。貴様が来ると信じていた」
その声音に、かおるの肩が跳ねた。
「……カナメ、か?」
男は仮面を外す。
だが――そこに現れたのは、全く別の顔だった。
灰銀の髪、蒼白な肌。だが、彼の眼差しだけは――かおると同じ“何か”を宿していた。
「俺の名は“クラウス”。そして、お前と同じ“転生違法者”だ」