第8章70【騒がしくも甘い朝】
今回は、1話まるごと日常回にしてみました。
戦闘から一夜明けた朝。かおるは久々に落ち着いた寝起きを迎えた。窓の外では鳥がさえずり、平和な空気が漂っていた。ベッドの中でまどろんでいると、キッチンから微かに食器の音が聞こえる。
「……誰か起きてるのか?」
重い体を起こしてリビングへと向かうと、そこにはエプロン姿のアリシアがいた。
「おはよう、かおる。朝ご飯、作ってるところよ。ほら、座ってて。今日はお礼も込めて、私がぜーんぶやる!」
いつもより機嫌の良いアリシア。目が合った瞬間、思わずかおるは目を逸らす。昨日の戦闘で見せた彼女の本気、それに…その夜、あの熱のこもった視線。まさか、と思いながらも、彼女の笑顔に胸の鼓動が速まる。
「そ、そうか。悪いな…。」
「なによ、照れてるの? かわいい〜!」
ぴたりと寄ってきて、わざとらしく胸元を揺らすアリシア。近すぎる距離に、かおるは思わず椅子ごと後ろに倒れかける。
「ちょ、おまえっ…!」
「ふふっ、なにかあった? 顔真っ赤だけど?」
そこへ、静かに扉が開いた。白銀の髪を揺らしてリリアが入ってくる。昨日の戦場とは打って変わって、カジュアルな装いの彼女はまるで別人のようだ。
「騒がしいですね、朝から。」
「リ、リリアか…!」
アリシアはぴくりと反応し、リリアを一瞥する。その目は明らかに対抗心を秘めていた。
「ふぅん、新入りさんは朝から来るのね。ま、かおるにベタベタしなければ、私は別にいいけど?」
「あなたがそれを言いますか?」
「はぁっ? なによ、その言い方!」
睨み合う二人を前に、かおるは心の中で頭を抱えた。どうしてこうなる。なんで毎回、女の子同士が火花を散らすんだ…。
「おい、二人とも、落ち着けって…朝だぞ、まだ…!」
「うるさい!」 「黙っててください。」
見事なハモりに、かおるは何も言えず固まった。
──そんな中、背後から忍び寄る気配。
「うるさい。朝は静かにするものよ。」
セラが眠そうな顔でリビングに現れ、乱れた寝巻きのまま、無言でかおるの隣に座り込んだ。
「……。」
「……。」
「……。」
誰も何も言わなかった。全員の視線が、セラの肩に自然と集まる。
「……あの、胸元、空いてる。」
「えっ?」
セラは一瞬きょとんとした後、自分の服を見下ろして…一瞬で真っ赤になり、そのまま無言で部屋に引っ込んだ。
「うーん、今日はにぎやかな朝ね!」
アリシアが笑いながら、トーストをかおるの口元に差し出す。
「さ、あーんして?」
「お、おい、やめろって!」
「ん〜? じゃあ、リリアがしてあげる?」
「遠慮します。」
リリアは即答だったが、顔がほんのり赤かった。
──騒がしくも、甘くてちょっと気まずい朝が、今日も始まった。
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