第8章65【残響の街、静かな殺意】
かおるは冷静に周囲を見回した。市場の喧騒は突如として静まり、空気が張り詰める。アリシアの手を握りしめるが、彼女もすでにその状況に対応しようとしている。後ろから迫る気配に気づいたのだろう。
「かおる、あれ……」
アリシアが指差した先には、仮面の一団が静かに並んで立っている。皆、黒いローブに覆われ、顔を覆う仮面からは一切の感情を読み取ることができない。
「完全に囲まれたか。だが、まだ慌てる必要はない」
かおるはアリシアを守るように、前に出た。
「お前たちは一体……誰だ?」
「我々の名前など、どうでもよい。だが、我々の目的は一つだ」
仮面の一団の中から、声が響いた。無機質で冷たい音色だ。
「お前を……排除することだ」
その言葉に、かおるは深く息を吐いた。すでに状況は決まっている。戦いが避けられないことを理解していた。
「排除? 誰が俺を排除しようとしてるんだ?」
「それは言えない。しかし、お前が生きている限り、この世界には不穏な空気が漂い続ける」
仮面の男がそう言うと、他の者たちも一斉に動き出した。
「来い、かかってこい」
かおるは冷徹な目を仮面の者たちに向ける。アリシアは背後で身を固め、かおるの動きを見守る。
「待ってて。絶対に守るから」
かおるの声には力が込められていた。だが、アリシアもすでに無力ではない。彼女の手元には、彼女自身の力が宿りつつあったのだ。
仮面の一団が一斉に攻撃を仕掛けてくる。だが、かおるはそれを一手に受け止めると、瞬時に反撃を繰り出した。
素早く、無駄のない動き。目の前の敵を瞬時に弾き飛ばし、次々と迫りくる者たちを圧倒していく。
「ふん、雑魚が」
だが、仮面の一団は驚くべき力を持っていた。攻撃を受けて怯むことなく、次々と立ち上がり、かおるを追い詰めてくる。
「こんな連中を相手にするのか……」
かおるの体力は限界に近づき、徐々に疲れが見え始める。しかし、彼の目はまだ光っていた。アリシアが心配そうに彼を見ているが、かおるは冷静に言った。
「アリシア、少し下がっていてくれ。今度は俺が仕留める」
かおるは自らの力を振るい、再び戦闘を続ける。
その時、突然、背後から強烈な一撃がかおるに襲いかかった。仮面の一団が仕掛けたその攻撃は、彼の防御を突破し、かおるの身体を捉える。
「くっ……!」
かおるは一瞬、よろめくが、すぐに立ち直り、反撃を開始する。
「アリシア、今だ!」
アリシアはすぐに自らの力を解放した。彼女の手から光が放たれ、仮面の一団の攻撃を弾き飛ばしていく。
「これで……!」
アリシアの力が集結し、全力で放たれた光が一団を包み込み、その一撃で幾人かが倒れた。しかし、まだ戦いは終わらない。
「やっぱり……簡単にはいかないな」
かおるは再び立ち上がり、アリシアの手を取る。
「アリシア、これからだ。気を抜くな」
その言葉を聞き、アリシアは再び気を引き締める。
しかし、その時、仮面の男の一人が静かに言った。
「お前たちには、もう一つの選択肢がある」
かおるはその言葉に眉をひそめた。
「選択肢?」
「お前を排除することは、我々の目的の一つだ。しかし、もしお前が我々に協力すれば……その命を助けることも可能だ」
その言葉に、かおるは一瞬の沈黙を置いて、冷徹な笑みを浮かべた。
「協力か……。ふざけるな、俺は誰にも支配されない」
その言葉とともに、戦いが再び激化していく。