第7章62【神の牢獄へ ―禁じられた扉の先―】『長編1』
長編に挑戦してみました。楽しんでみてね!
第一部:裂け目の先
世界の果てにそびえる“黒の塔”――“神の牢獄”。
それは、空すら裂く異形の建造物だった。
「……いよいよ、だね」
アリシアが、かおるの隣で呟いた。目の奥に、不安と決意が入り混じった光を宿している。
セラは少し離れた場所で、剣を背負ったまま黙して立っている。ジークの姿は、もうここにはない。仲間だった彼らの犠牲を越えて、いま、かおるたちは“核心”へと進もうとしていた。
「行こう」
かおるは、一歩、扉の前に進み出る。
そこに、黒い結界が立ちはだかる。
「……魔法じゃない。属性干渉か? 違う、これは……記憶を試す門だ」
塔の入り口に刻まれた文字が、脳内に直接語りかけてくる。
“汝、その魂に嘘がないか。”
「試練……か」
アリシアがかおるの腕を握った。
「私たち、全員で進もう。どんな過去が暴かれても、私はあなたの味方だから」
その言葉に、かおるは軽く頷いた。
「ありがとう」
結界を越えた瞬間、世界が、歪んだ。
───
気がつくと、かおるは見覚えのある学校の廊下に立っていた。
「……これは、前世の記憶……?」
制服姿の自分が、下を向きながら歩いている。教室のドアを開けると、そこにいたのは――。
「やめろって! かおるに何するんだよ!」
殴られる自分をかばう、ひとりの少年。
「……シロ……?」
かおるは、その光景に息を飲んだ。自分を庇って暴力を受けた少年。結局、その日から彼は転校し、二度と会えなかった。
「そうか……あの時、おれは……あいつの犠牲の上に立ってたんだ」
目の前の記憶の“幻”が崩れていく。
そして、次の瞬間――アリシアの叫び声が聞こえた。
「かおる!! 来ないで……っ!!」
第二部:アリシアの記憶
歪んだ回廊の中、かおるはアリシアの姿を見つける。
白い空間。無限に広がる鏡の世界。
中央に、小さな少女が膝を抱えて座っていた。
「アリシア……」
近づこうとした瞬間、無数の鏡が炸裂する。
「――あなたは、私を見捨てた!」
現れたのは、“もう一人のアリシア”。憎悪を宿した瞳で、かおるを見下ろしてくる。
「違う、俺は……」
「黙って。……これは、私の“本音”だから」
“偽アリシア”が指を鳴らすと、鏡が世界中に砕け散る。その破片のひとつひとつが、アリシアの過去の記憶を映し出していた。
王族としての冷たい教育、友人の裏切り、誰からも本音を聞かせてもらえなかった日々。
「本当は、私、あなたにすら信じてもらえないって思ってた。……だから、怖かったの」
「――それでも、俺は君を信じる」
かおるがその手を伸ばす。
アリシアの身体に触れた瞬間、幻は砕け、彼女が本来の姿を取り戻した。
「……私、弱いね」
「弱くていい。俺がそばにいる」
二人は静かに抱きしめ合う。
───
結界が消えた。
セラが待っていた。
「……どうやら通過できたようだな」
「お前も、試練を?」
「いや、私には“見る価値のある過去”なんてなかった。お前らは違うらしい」
皮肉のようで、優しさを含んだその言葉に、かおるは静かに微笑んだ