第7章61【監視者、襲来】
その塔は、地平線の先に聳えていた。
黒く、鋭く、まるでこの世界そのものを貫くように。
「あれが……“神の牢獄”」
かおるが呟くと、セラは息を飲む。
「伝承通りなら、最初の神が“落ちた”場所……その神が、世界を支配する属性を作り出した。ならば、そこに“全ての起源”があるはず」
アリシアは静かに首を振った。
「でも、近づく前に気をつけて。きっと“監視者”が……」
その時だった。
空気が裂けた。**ゴォン……**と、異音が響く。
「来た……!」
空間が割れ、中から現れたのは**“無機質な仮面をつけた存在”**。
黒い外套に身を包み、口はなく、ただ視線だけで威圧してくる。
セラが呟く。
「“監視者”。……この世界の維持者……違法な存在を排除する、神の使い……!」
かおるの背筋がぞくりとする。
「敵だな」
仮面の監視者は、片手をかざした。
空間がゆがむ。次元すら操る力――!
「ッ、アリシア、離れろ!」
アリシアの身体が浮かぶ。引き裂かれる寸前で、かおるがその手を握った。
「お前を、誰にも奪わせない!」
その瞬間――。
“無属性”の力が爆発した。
監視者の術式が破壊される。
仮面がひび割れ、中から**“人の目”**が現れた。
「な……お前、まさか――」
監視者は一瞬怯んだが、すぐに態勢を立て直す。
「……属性を持たぬ者よ。“創造主”は、お前の存在を認めない」
「だったら、その“創造主”に伝えとけ」
かおるは、黒い風を纏うように前に出た。
「この世界の真実を知って、俺は俺の意思で戦うってな」
◆ ◆ ◆
戦いは一瞬だった。
かおるの一撃が、監視者の仮面を砕く。
そこから現れたのは――少年の顔だった。
「シロ……?」
だが、少年は泣いていた。
「ごめん……本当は、オレも“違法”だったんだ……。でも、命と引き換えに“監視者”になるしかなかった」
「お前……」
シロの体が崩れていく。
「“神の牢獄”に、真実がある……かおる兄ちゃん、お願い……オレの代わりに、辿り着いて……」
そして、静かに風に還る。
◆ ◆ ◆
その夜。
アリシアの部屋。
「……ねえ、かおる。私、ずっと前に一つだけ願ってたことがあるの」
「なんだ?」
「“あなたが、最後まで生きてくれること”」
かおるはそっと微笑む。
「じゃあ、約束しよう。俺は死なない。どんな真実を知っても、必ずここに帰ってくる」
アリシアは、かおるの胸に身を寄せて囁く。
「……それなら、今夜は離さないで。ずっと、そばにいて」
「……ああ、朝までずっと」