第7章60【堕ちた神と、世界の扉】
その夜、かおるは夢を見た。
黒い空。白い地平。そこに、**「声だけの存在」**がいた。
《……お前は、なぜこの世界に逆らおうとする?》
「……お前は誰だ」
《我は、世界の“管理者”ではない。ただの囚人。お前と同じ、“違法”の存在だ》
その声は、どこか悲しげだった。
《この世界は閉じられている。“神”という名の監獄に。そこから逃れようとすれば……消される》
「……ジークも、クロエも……」
《ああ。彼らは“存在してはならない真実”に近づき過ぎた》
そして、声が警告する。
《お前の選んだ道は、“創造主”の怒りを買う。だが進め、もし真実を知りたければ》
「教えろ。すべてを」
《では、“神の牢獄”へ来い。すべては、そこにある》
◆ ◆ ◆
翌朝。
かおるは目を覚まし、真っ先にアリシアとセラを呼んだ。
「行き先が決まった。“神の牢獄”って場所が、この世界の真実を握ってる」
アリシアが目を見開く。
「“神の牢獄”……そんなの聞いたこともない……」
セラは目を細めて、低く呟く。
「それは、おそらく“起源の地”。属性の原点、最初の神が封印されたとされる……伝説の場所よ」
「行こう。そこに、“真実”がある」
◆ ◆ ◆
旅路の途中。
村に立ち寄ったかおるたちは、“無属性”の少年と出会う。
名はシロ。
彼は、属性がないことで村人に迫害されていた。
だがその少年は、かおるに向かってこう言った。
「オレ、知ってるよ。“神様の檻”の場所。昔、お母さんが夢で見たって」
「本当か?」
「うん。オレも見た。でっかい塔。黒くて、空まで届いてる」
それが“神の牢獄”。
導かれるように、かおるたちは再び歩き出す。
だがその背後――“監視者”が動き始めていた。
◆ ◆ ◆
夜。
宿の一室。
アリシアは、かおるの隣でそっと囁いた。
「……ねえ。私たちって、死ぬかもしれないよね」
「……ああ。でも、怖くないよ」
「ほんと?」
「お前がいるから」
アリシアは少しだけ涙を浮かべながら、かおるの胸に顔を埋める。
「……バカ。そう言われると……泣いちゃうじゃん……」
そして、唇が重なる。静かに。だけど確かに――過去ではなく、“今”を生きるために。