第6章57【影、集い始める】
この作品の完結はまだほどとおいですが、応援よろしくお願いします!
その夜。王都の東端、廃寺と化した教会にて。
「……ついに“黒属性”が現れたか」
黒衣の男が呟いた。彼の名は〈ゼノ・バルトレオ〉。
異端の使徒を狩る秘密組織“白塔連盟”の長にして、この世界の“均衡”を守る狂信者。
「記録によれば、百年に一度、“外から来る者”が現れる。黒き災厄、再び――」
背後に控える女が、仮面の下でくぐもった声を発した。
「“処分”しますか?」
ゼノは答えなかった。ただ、細く、微笑んだ。
◆ ◆ ◆
翌朝。
訓練場の裏で、アリシアがかおるに詰め寄っていた。
「ねぇ、昨日の夜……“アヤ”って誰なの?」
「……!?」
突然の問いに、かおるの心臓が跳ねた。
「夢で呼んでた。あの子の名前。……わたし、聞いてたのよ」
アリシアの瞳には、微かに嫉妬と哀しみがにじんでいた。
「私には、話してくれないの? あなたの“前の世界”のこと」
「……アヤは、俺の妹だった」
静かに、かおるは語り出した。
この世界に来る前。目の前で命を奪われた妹のこと。
彼女を助けられなかったことが、今も心の底に刺さっていること。
そして――
「俺は……あの時、アイツを“殺した”。妹を殺した犯人を」
アリシアの表情が凍る。
「だからこの世界に来たの? 逃げるようにして……」
かおるは頷く。だがその瞳に、逃避の色はなかった。
「違う。……俺は、この世界で“償い”を探してる。アヤの分まで、ちゃんと……生きたい」
アリシアは、その言葉を聞いて――ただ、彼を抱きしめた。
「……かおる。泣いていいのは、私の前だけにして」
そしてその様子を、物陰からセラはそっと見つめていた。
静かに笑いながら、背を向けた。
「よかったじゃない。かおる……あなたはようやく“誰か”に寄りかかることができたのね」
そう呟き、セラは再び自らの剣に向き合う。
彼女には、彼女のやるべきことがある。
過去に命を奪われた仲間たちの“復讐”という、絶対の使命が――
◆ ◆ ◆
一方その頃。
白塔連盟の使徒が、王都の外れにある小さな村へと姿を現す。
「確認された黒属性個体は“この街”に滞在中と断定。目撃された“灼黒”のオーラを持つ少年、か」
そして――一夜のうちに、村は跡形もなく消えた。
黒い霧の中で笑うゼノ。
「さあ、“審判”を始めようか。異界の罪人よ」