第6章55【二人の決戦】
リスタリア遺構からの帰還から数日後。
街の広場で、なぜか妙な空気が漂っていた。
「おい、かおる……あれ、なんだ?」
「俺にもわからねぇ……」
広場の中央には、アリシアとセラが向かい合っていた。
互いに腕を組み、バチバチと火花を散らしている。
「アリシア。さっきの件、どういう意味か説明してもらおうかしら」
「ふふっ、セラこそ。『かおると二人きりで話がある』って、どういうつもり?」
完全に、宣戦布告である。
「やべぇ……これ、女同士の戦争が始まる……!」
――というわけで、突如開催された。
『かおる争奪ラブコメ対決』。
街の広場を使っての非公式イベント。もちろん、発案者は例によってマリア。
「観客動員数、予想以上! これで“恋する乙女の純情対決”ってわけね!」
観客には地元住民どころか、冒険者ギルドの連中まで来ていた。
◆ 第一競技:かおるクイズ
マリア:「第一問! かおるが好きな朝食は?」
セラ:「焼き魚定食!」
アリシア:「ベーコンエッグとトースト!」
かおる:「……パン派だけど、セラの魚もうまい……」
マリア:「両者、半分正解!」
◆ 第二競技:かおるのピンチを再現せよ!
ステージ上で、かおるの“過去のピンチ”を即興演技で再現する競技。
アリシアが、襲われるかおるを助けるプリンセス役で熱演し――
セラは、かおるに覆いかぶさる形で「絶対守るから」と迫るガチ演技を見せ――
観客から悲鳴と歓声が上がる。
かおる:「いやもうやめてくれマジで……ッ!」
◆ 第三競技:実際にかおるを“ドキッ”とさせた方の勝ち!
マリア:「これは審査員の心拍数を計測して決定します!」
かおる:「そんなの聞いてない!!」
アリシアは、耳元でそっと囁く。
「今夜、部屋に来てくれたら……続きを、ね?」
かおる:「うおおおおい!?///」
心拍数:185
セラは、無言で手を握り、目を閉じる。
「黙ってても……感じるでしょ、気持ちくらい」
かおる:「く…ッ!」
心拍数:92
マリア:「勝者は……アリシアぁぁ!」
セラ:「ぐっ……!」
アリシア:「ふふ。これが経験の差よ」
◆ ◆ ◆
騒ぎのあと。
夕暮れ、静かな丘の上。かおるは一人、風に当たっていた。
そこにアリシアが現れる。
「ねえ、今日の勝負、どうだった?」
「……圧倒されたわ」
かおるが照れたように笑う。
「でもさ、あれ見て思ったんだ。俺は……どっちか一人を選ぶなんて、できねぇかもしれねぇって」
「うん、知ってる。でも、私はそれでもいいの」
アリシアがそっと寄り添う。
「かおるの隣で笑っていられるなら、それだけで……」
そのまま、アリシアの唇が、かおるの頬にそっと触れる。
「……今のは、勝者の特権ね」
ふっと微笑んで、彼女は歩き出した。
そして、遠くの木陰から、セラがそれを見ていた。
「……アリシア、やるわね。でも……まだ、終わらせない」
静かに誓うように。
――日常の裏側で、世界は動き出している。