第6章54【封印都市リスタリア】
都市から遥か南、砂に埋もれた古代の都市遺構――リスタリア。
ここは、かつて“神の知識”を封印したとされる禁断の地。
その入口には、無数の魔術式……ではなく、“属性干渉領域”が展開されていた。
「この感覚……やっぱり魔法じゃない。もっと根源的な、法則操作……?」
セラが呟く。
そして、かおるの身体が自然に反応した。
属性干渉領域の内側に入った瞬間、彼の周囲の“世界の密度”が変わったのだ。
「おい……何かが、俺を呼んでる……!」
「待って、かおる!」
アリシアが咄嗟に手を伸ばすが、彼はすでに光の中へ消えていた。
一方――
かおるが目を覚ました場所は、都市リスタリアの核心部、“封印区画”。
そこには、眠るように横たわる“何か”があった。
……棺。
そして、その棺の前に立つ一人の男――
「ようやく会えたな、“クロノスの器”よ」
灰色のローブを纏った青年。その名は《ヴォルグ》。
「お前、何者だ……!」
「我は次元を渡る者。この世界を『正しい形』に戻すために現れた。そしてお前は……“この世界の誤差”だ」
「誤差……?」
ヴォルグが指を鳴らすと、棺の中身が露わになる。
そこには――かおると瓜二つの男が眠っていた。
「……これって……俺?」
「いや。これは“お前がなるはずだった存在”。本来、この世界にはお前など存在しなかった。だが、クロノスが最後に“逆転の布石”として残したのだ。お前をこの世界に“ずらし”て生まれさせた……」
「俺が……世界の綻び?」
動揺するかおる。だが――
「それでも、俺はこの世界で“今を生きてる”。過去がなんだって関係ない!」
拳が燃え上がる。
「この世界で出会った仲間がいて、守りたい奴がいて……それだけが、俺の真実だ!!」
直後――
封印区画の外で、セラとアリシアが同時に空間の異常を察知する。
「かおるが……戦ってる!」
「私たちも行くよ!」
二人は属性干渉を強引に破って突入する。
その瞬間――
三人が揃った。
「来たか……だが間に合わん!」
ヴォルグが手を振り上げると、空間がねじれる。
「次元断層展開。ここより先、歴史の因果を修正する!」
ヴォルグの攻撃が放たれる直前――
かおるは叫んだ。
「アリシア! セラ! いけるか!」
「ええ!」
「任せて!」
三人の属性が交差し、未知の干渉波を生み出す。
――それは、魔法ですらない。
“未来を変える力”。
「――喰らえ、誤差修正者! これが、俺たちの『現在』だッ!!」
爆発的な閃光が封印区画を包んだ。
◆ ◆ ◆
――後日。
リスタリア遺構からの帰還後、アリシアとセラが並んで歩く。
「……ねぇ、正直に言っていい?」
「なに?」
「私、ちょっとだけセラのことライバル視してた」
「知ってたわ。顔に出てたし」
「うぅ……。でも、あなたも悪くない女だから、仕方ないか」
「は? なにその上から目線」
かおるが、遠巻きに見て思った。
――どっちも譲らねぇんだな……。
日常は続くようで、やっぱり波乱に満ちていた。