第6章53【クロノスの遺児】
静まり返った記録管理庁の地下――
その最奥に保管された“封印記録”に、セラは息を呑んだ。
「クロノス……。やっぱり、あなたは普通の転生者なんかじゃなかったのね、かおる」
そこに記されていたのは、一万年以上前の“世界設計者”の名――クロノス。
そして、現代に転生した「その遺児」の存在。
「まさか、転生自体が……“仕組まれていた”?」
セラはデータ端末を閉じ、静かに立ち上がった。
「この真実を知ってしまった以上、私も動くしかない……!」
一方その頃――
かおるとアリシアは、湖畔の宿で束の間の休息を取っていた。
「……ふう。ようやく、風呂に入れたな」
「私、手当てしてあげる。背中、見せて」
「え、お、おい待て。お前、ちょっと距離が――」
「かおるのせいでしょ。私、さっきの戦闘で腕、こんなに擦りむいたんだから。ほら、感謝してよね?」
不満そうに唇を尖らせながらも、アリシアは丁寧に包帯を巻く。
――だが。
「……」
包帯の手が、ふと止まった。
「どうした?」
「……好き。かおるのこと」
不意打ちだった。
かおるの心臓が高鳴る。
「ずっと、言いたかったけど……あなたはきっと“どこかに行ってしまう”気がして」
アリシアの声は、震えていた。
「でも、今日、決めたの。たとえどんな過去があっても、私はあなたのそばにいるって」
かおるはゆっくりとアリシアの肩に手を置いた。
「……バカだなお前」
「……バカでいいもん」
唇が、わずかに近づいた――
その瞬間。
「かおる、いるか!? 緊急だ!」
扉が荒々しく開かれた。
セラだった。
「……空気読めよ……」
アリシアが呟いた。
「急ぎだ。お前の“出生”が記録にあった。“クロノス”の名でな」
「……!」
かおるの表情が一変する。
クロノス――
それは、この世界を設計し、属性体系を構築したとされる“原初の神”の名。
「もしそれが本当なら……俺は……」
「お前が何者かは、まだわからない。でも、敵が先に気づいたら……次はお前の命が狙われる」
かおるは拳を握った。
「行こう。今度は、“自分の正体”を知るために」
アリシアとセラが、かおるの両側に立つ。
「ならば、私たちも一緒に。どんな真実でも受け止めるわ」
三人の物語は、再び動き出す――
世界の“始まり”に迫る旅が、今、幕を開ける。