第6章52【共闘、そして誓い】
霧が、静かに森を包む。
その中で、かおるとアリシアは《リブラ・ノクス》と対峙していた。
「アリシア。お前は下がれ。こいつは……ただの刺客じゃない」
「わかってる。でも、下がらない。あの日、あなたと誓ったから。どんなに強い敵でも、一緒に立ち向かうって」
アリシアは短剣を抜いた。
それはかつて、騎士団長であった彼女の“唯一奪われなかったもの”だった。
「共同戦線ってやつだな……いいだろ、やってやろう」
かおるは背中に仕込んでいた短剣を逆手に握る。
その刃には、正規の技術では解読できない“属性外”のエネルギーがうっすらと輝いていた。
「開始する」
ノクスが動いた。
彼の放つ氷の矢が、時間を歪ませながら襲いかかる。
だが――
「そんなもの――」
かおるが右腕を振るう。
矢が砕け、音もなく消える。
「時間属性だと? いや、それに似て非なる何か……!」
「分析してる暇はねえぞ!」
かおるが斬りかかる。
その動きにアリシアも追随するように回り込み、挟撃。
「甘い」
ノクスは片手で地面を抉った。
土砂が炸裂し、視界が遮られる。
その一瞬、ノクスの姿が消える。
「後ろだ!」
アリシアが叫ぶ。
かおるが振り向いた時には、氷の刃が数センチの距離に迫っていた。
「く――!」
しかし――
「約束しただろ、“一緒に戦う”って!」
アリシアがその刃を弾いた。
二人の背中が、ぴたりと重なる。
互いの鼓動を感じながら、息を合わせる。
そして次の瞬間――
「“零閃”」
かおるが閃光のように走った。
「“聖断”!」
アリシアが突き上げるように斬りつける。
二人の連撃が、ノクスの外套を裂いた。
氷が粉々に砕け、男が後退する。
「……想定外。接続切断」
ノクスは霧に溶けるようにして姿を消した。
静寂が戻った。
「逃がしたか……」
「でも、勝った。あなたと、二人で」
戦いの直後とは思えないほど、アリシアの笑顔は穏やかだった。
「なあ……」
「うん?」
「このまま、全部投げ出して、どこか遠くに行くってのは――」
「ダメ」
即答だった。
アリシアは顔を赤くしながら、しかし真剣に言った。
「私は……あなたのすべてを受け止めたいの。“違法”って理由で一緒にいられないなら、世界を変える」
「それは……」
「誓ったから。あなたに」
かおるは息を呑む。
そして、彼女の手を強く握り返した。
「なら……俺も信じる。お前と一緒に、この世界を騙し抜くって」
その頃――
セラは、《記録管理庁》の地下牢に侵入していた。
彼女の目は、ある一枚の“改竄された記録”に向いていた。
「これは……かおるの、出生記録?」
そこには、“本来存在しないはずの血筋”が記されていた。
「まさか……。あの名前……“クロノス”……!?」
世界の核心に、セラが触れ始めていた。