第6章49【連盟の断罪者《クロノ・ジャッジ》】
森に張り詰めた空気が走る。
それはただの気配ではなかった。
“記録の法”に違反した者を抹消するための存在――記録連盟の断罪者。
かおるの背筋に、冷たい悪寒が走った。
「まさか……もう動いたのか……!」
隠れ家の外に出た瞬間、森の木々が吹き飛ばされた。
風ではない。“時間”が削り取られたのだ。
そこに立っていたのは、一人の男。
黒いローブに、古代文字が浮かぶ銀の仮面。
「――時の審判者、クロノ・ジャッジ。記録違反者・かおる、お前の処刑を開始する」
「チッ……速すぎる!」
かおるは構えを取るが、相手の気配が次元そのものを歪めていた。
動きが見えない。瞬きの間に、距離が詰まっている。
アリシアが剣を構えて前に出た。
「させない……! この人を奪わせはしない!」
斬撃。――だがそれは空を切った。
《クロノ・ジャッジ》は“時間”の中を歩いていた。
彼女の攻撃は、全て“発動前”に打ち消されてしまう。
「貴様らの愛など、記録の歪みそのもの。
情は世界を壊す――消えろ」
指を鳴らすと同時に、アリシアの身体が硬直する。
「動けない……っ!?」
「“記録固定”。お前の記録は、今この瞬間に凍結された」
その時だった。かおるが叫ぶ。
「触るな……! 彼女にだけは、絶対に……!」
怒りが記録を揺らす。
“魔法”ではない、“感情”の力が、世界を書き換え始めた。
時間を断ち切る力が、彼の手から迸る。
「――解放する。《記録反証:起源の拒絶》!」
世界が揺れる。時間が跳ね返る。
《クロノ・ジャッジ》の攻撃が、逆流し、彼自身に返っていく。
「なに……!? 記録を逆転させただと……!?」
「記録が正しいとは限らない。
世界は常に、未来を更新してるんだよ!」
かおるの拳が、ジャッジの仮面を砕いた。
中から現れたのは、蒼白な少年の顔。
「僕は……“最初の記録違反者”だ。君と同じ……裏切られた記録の犠牲者なんだ」
「――!?」
断罪者の正体は、かつて記録に反しすぎた“正義の英雄”。
そして彼は静かに崩れ落ちる。
「また……“記録”が、歪むね……」
夜が明ける。
森の静寂の中、アリシアがかおるに抱きついた。
「守ってくれて……ありがとう」
「当たり前だろ。もう、お前は……俺の“女”なんだから」
世界が彼を追い詰める。
だが、守るものがある限り、かおるは抗い続ける。