第1章5【都市包囲と少女兵士】
爆発音の直後、ジークの部屋の窓から黒煙が立ち上るのが見えた。
「……マジかよ。ラストリアの外周が燃えてる」
「これは偶然じゃない。かおる、移動の準備を」
ジークは冷静に鞄をまとめながら、アリシアに指示を出す。
アリシアもすぐさま応じるが、俺だけが硬直していた。
「……俺のせいか?」
「気づいたか。たぶん、お前の“転生情報”がどこかで漏れてる」
──この街も、もう安全じゃない。
避難の途中、ジークが気まぐれに言った。
「しかしアリシア、お前、随分そいつに肩入れしてるな」
「っ……そういうの、いいから」
アリシアが少し顔を赤くして横を向く。
その仕草が、なんとなく胸に引っかかった。
(……まさか。いや、そんなこと)
それからすぐ、裏路地で襲撃者に遭遇する。
──全身黒ずくめの、無言の兵士たち。
「かおる、隠れて! 私がやる!」
アリシアが短剣を抜き、前に出た。
あのときと同じだ──俺を守ろうとする目だった。
「……ふざけんな」
俺は無意識に前へ出ていた。
「かおる!? なにして──」
襲撃者の刃が俺をかすめ、血がにじむ。
でも、それよりも──
「俺が助けてもらってばかりじゃ、情けねぇだろ」
「…………バカ」
その声は震えていた。
攻撃者をジークが撃退したあと、アリシアは黙っていた。
だが、ジークがからかうように言った。
「おいアリシア、お前もう惚れてんじゃねーの?」
「はあ!? なに言って──」
真っ赤になったアリシアが、ジークに本気のパンチを入れる。
俺はそれを見て、少しだけ笑った。
──この街は危険だ。でも、悪いことばかりじゃない。