第5章38【空白の少女、歪む再会】
第5章スタート!
港街ユルセアの夜は静かだった。
けれど、かおるの心は騒がしかった。
「……寝れない?」
アリシアがそっと声をかけてくる。
薄い毛布を肩にかけながら、彼の隣に腰を下ろした。
「クロエのこと、まだ考えてるのね」
「……あいつの“痕跡”が、全部消えてる。まるで最初からいなかったみたいに」
かおるの手元にあるメモリ端末には、“クロエ”という名前すら表示されなかった。
「でも……私の中には、ちゃんといるよ。あの子のこと、私は忘れてない」
そう言って、アリシアはかおるの手に自分の手を重ねた。
「誰かの記録に頼らなくたって、私たちが“覚えてる”。それで、いいんじゃない?」
かおるは一瞬、言葉を失った。
そして、小さく笑う。
「……救われたわ。アリシア」
「当然でしょ。恋人、なんだから」
「……あれ? 今、なんて?」
「んふふ、なんでもないわ」
アリシアの赤くなった横顔を見て、かおるの胸が少しだけ軽くなった。
その翌日――。
「カオル……! 来て……! “記録塔跡地”に……変なのが……!」
ラゼルが蒼白な顔で駆け込んできた。
彼の言葉を聞いて、かおるとアリシアは顔を見合わせる。
跡地には、誰も近づけないはずだった。
だが――そこにいたのは、
**“クロエに似た少女”**だった。
目は虚ろで、何も語らない。だが、確かに彼女の“姿”は、かおるの記憶と一致していた。
「嘘だろ……?」
「これは……再構成体? でも、魔法は使ってないはず……!」
アリシアの言葉に、かおるの背中に冷たい汗が伝う。
――これは、“記録を歪ませる力”の応用?
ただの再会じゃない。これは、誰かの意思による“再配置”。
謎と再会の気配が交差する中、第5章の幕は静かに、そして確かに開かれていた。