第4章37【残響の街、消えた記録者】
――記録塔事件から、三日後。
港街ユルセアは、いつもと変わらぬ喧騒に包まれていた。
けれど、それは“表面だけ”の話だった。
「やっぱり……街の記録が、一部抜けてる。『三日前』以前の“記録者”が、何人も消えてる……」
かおるは、塔で回収した記録端末を見ながら呟いた。
アリシアが、その肩越しから覗き込む。
「まるで、“誰か”が後始末してるみたいね。あなたの存在を追跡できないように」
「俺を、守ってる……ってことか?」
「あるいは……」
彼女はかおるの目をじっと見つめた。
「かおる自身が、もう“誰かの記録”じゃない、ってことかも」
その言葉に、かおるは息を呑んだ。
――自分はもう、“異物”じゃない?
そんな会話の途中、ふいに酒場の扉が勢いよく開いた。
「おーい! カオル、いるかぁ!」
現れたのは、元・記録管理者の青年ラゼルだった。
「大変だ! クロエの記録が、“街のどこにもない”んだ!」
「なに……?」
確かにクロエは死んだはず。だが、“記録”からも消えるというのは異常だった。
「墓標に刻んだはずの名前も、今朝見たら“空白”だった」
ラゼルの言葉に、アリシアの表情が引き締まる。
「つまり……“誰か”が、クロエの死を“なかったこと”にしようとしてる?」
「あるいは、“誰か”がクロエを、“別の形”で蘇らせたか……」
かおるの脳裏に浮かんだのは、虚無の深層で見た“カガリの笑み”。
まだ終わっていない――これは、次の章の“始まり”だ。