第4章36【記録の狭間】【後編】
後編です!これで、完結、、では、ないよー!
次の瞬間、かおるとアリシアは、虚無記録の“深層”へと引きずり込まれた。
そこは、“書かれなかった物語”たちが、記録の端でさまよう領域。
無限の分岐、失われた記憶、語られなかった真実。
そして、その中心に彼女はいた。
「やっと、来たのね。かおる」
少女――カガリ・ユキ。
だが、彼女の姿は時々“別人”と重なって見えた。セリア。クロエ。ジーク。すでに死んだはずの仲間たちの顔。
「……お前、何者なんだ」
「私は、“物語の外側”から来た者。君と同じ。“記録違法者”の、原型よ」
カガリの手がかおるへと伸びる。
「君はね、ここで“終わる”はずだった。でも……誰かが君を物語にねじ込んだ。だから、君は“バレたら即死”の運命なのよ」
その言葉に、アリシアが立ちはだかる。
「かおるは、そんな不完全な存在じゃない。私がずっと見てきた。彼は“今を生きてる”。その事実こそが、記録だわ!」
叫ぶ彼女に、カガリは悲しげに微笑む。
「それが――一番危険なの」
カガリが指を鳴らすと、記録の断片が無数に降り注いだ。かおるを“削除”するように。
「かおるを……返してもらうわ」
そのとき、アリシアが彼の手を強く握った。
「私の記録に、かおるを“刻む”!」
彼女の瞳が強く輝いた瞬間、周囲の記録が“再構成”される。
アリシアの想いが、新たな“記録”を作っていく。――未来の記録だ。
「君は、ここにいる。それだけでいいの!」
記録が光を放ち、虚無空間が砕けていく。
カガリの姿もまた、霧のように薄れていった。
――かおるが選んだ“今”が、“違法”を超えて世界に刻まれたのだ。
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塔の外。
夕暮れの風が吹く中、かおるとアリシアは並んで歩いていた。
「……やっと、終わった?」
「いや、始まったんだと思う」
かおるは、空を見上げて呟く。
「これからは、記録じゃなくて、“俺たち自身の物語”を生きていくんだ」
アリシアは微笑み、そっと彼の手を握った。
「だったら、私はずっと君のヒロインでいる」
「……お前な、照れるだろ」
「ふふ、真っ赤」
二人の笑い声が、塔の記録にも残らない“本物の感情”として、夕空に溶けていった――。