第4章36【記録の狭間、歪む影】【前編】
下書きが残っていたので投稿します。今夜は徹夜して中編 後編かきます。頑張るぞー!
王都。西記録塔、封鎖区域。
ジリアンが姿を消してから数時間。かおるとアリシアは、記録局の仮調査室で沈黙の中にいた。
記録に“嘘”が混ざる――その異常。
そして、かおるの記録に関わっていた“誰か”が、かつて彼を保護し、存在を合法化しようとしたという“改ざん記録”。
ジリアンは確かにそう言った。そして、その人物がアリシアだと記録は示していた。
けれど――
「……やっぱり、信じるんだな」
かおるはぼそっと呟き、アリシアの横顔を見た。彼女は冷静を装っていたが、瞳は震えていた。
「たとえ記録に嘘が混ざっていても、お前が俺を裏切るような奴じゃないって、信じられるんだよ」
その言葉に、アリシアの唇が震えた。
「……ありがとう」
呟くように、でも確かに言葉が返ってくる。
その瞬間、ふと部屋の空気が変わった。
“違和感”――記録が動いた。
かおるの胸ポケットの中、“携帯型記録端末”が震える。
自動記録の反応ではない。まるで“誰かがアクセスしてきた”ような。
「……アリシア、避けろ!」
直後、部屋の天井が砕け、黒い何かが降ってきた。影。実体を持った“歪み”。
「記録、食われてる……!?」
アリシアが叫ぶ。影はそのまま端末に触れ、かおるの記録を直接“なぞる”ように絡みつく。
「こいつ、記録に触れて、そこから存在を侵食してくる……!」
すぐさまアリシアが結界術式を発動し、空間を保護する。
影は呻くような声をあげた。
「シ……ン……カ」
「進化、って言った……?」
だが、その問いに答えることはなく、影は溶けるように消えていった。
「いまの……なに? あれ、記録を“視てた”」
「ジリアンの仕掛けか、それとも……」
かおるの頭に、ある名前がよぎる。
――カガリ・ユキ。
名前だけが記録に残り、存在の痕跡が何もない“幻の少女”。
その正体は、ジリアンさえも“利用している”何かかもしれない。
“存在しない者”が記録に干渉している。
「……アリシア。ひとつ、試したいことがある」
かおるは、壊れかけの端末を手に立ち上がった。
「“記録の狭間”へ行く」
「記録の……狭間? 禁域区域の中でも、特に……」
アリシアは言葉を止めた。それは、最奥部。“虚無記録”と呼ばれる、世界の“編集ミス”のような記録空間。
存在の矛盾や破綻、認識の歪みなど、“物語にならなかった記録”が落とされる領域――。
普通は入れない。だが――
「俺なら、入れるかもしれない。“違法記録”だから」
かおるは笑ってみせた。
「一緒に行く。危険でも、私は君を置いていかない」
アリシアの言葉に、かおるは小さく頷いた。
そして二人は、西塔の最深部へと向かった。