第4章33【記録喰い、名乗る】
夜の王都、静寂に包まれた裏路地。
灯火も届かないその場に、かおるとアリシアはいた。
「この場所で、記録の歪みが……」
アリシアが周囲を警戒しながらつぶやいたそのとき、
不意に、時計の“カチッ”という音が響いた。
「――やあ、こんばんは。“違法者”くん」
声のした方に目を向けると、月明かりの下に、一人の少年が立っていた。
フードを下ろすと現れたのは、白金色の髪と、両目の色が違うオッドアイの少年。
「……お前が、“記録喰い”か?」
「そう呼ばれるの、正直センスないけど。まあ、間違ってはいないかな」
少年――ジリアンは、手にした懐中時計をひらひらと振る。
「この時計はね、“記録が嘘になった瞬間”を感知する。君のせいで、ずいぶん忙しくなったよ」
「だったら、俺を殺しに来たのか?」
「ううん、今日は“挨拶”だけ。だって、君の存在――とっても、面白い」
かおるは静かに構えた。アリシアも横に並び、手を広げてかおるを庇う。
「彼に手を出すなら、私が黙っていない」
「へえ、いいねえその目。恋人? 共犯者?」
「どっちもだよ。だから“記録なんかより、信じたいことがある”」
ジリアンは笑った。
その目には、好奇心と殺意が同居していた。
「君たち、ほんといい関係してる。……壊したくなるくらいにね」
そう言い残し、彼は音もなくその場から消えた。
かおるはその場に立ち尽くし、肩で息をついた。
「アイツ……“記録を書き換える力”を持ってる。たぶん、ライターより厄介だ」
「でも、私たちには時間がある。“彼の目的”を突き止めるまで……一緒に、戦おう」
「……ああ。お前がいるなら、負けない」
夜が深まっていく中、二人の手は固く結ばれていた。