第3章29【灰の図書館と、書かれざる真実】
次の話からイリナはいなくなります!すみません…。
アリシアとイリナが変装を整えるのを、かおるは記録端末で確認していた。
「王国の“灰の図書館”は、表向きは閉鎖された古文書庫。でも本当は、“異世界管理機構”のデータ中枢……だよな、イリナ」
「ええ。ここにすべての転生者記録と、“消去手段”がある。かおる、今回は“魔法なし”で乗り込む。大丈夫?」
「もちろん。“記録破壊”は頭でやるもんだろ?」
――潜入開始。
三人は、王都の地下にある“灰の図書館”に忍び込む。
魔法センサーを避けながら、古びた階層へと降りていく。
「……ねぇ、ちょっと怖い」
アリシアが、かおるの袖をつまんだ。
「魔法も使えない、敵の正体も見えない、真っ暗な場所って……そりゃあ、怖いよ」
「でも、お前がいるなら俺、何も怖くねぇよ」
「~~っ! そ、そういうの急に言わないでよ!」
そんなやりとりの直後、階段の先に――“異常な扉”があった。
鉄製の巨大なアーカイブゲート。だが、そこには何か“奇妙な違和感”があった。
「……この扉。記録が、ない」
「記録が……“空白”? そんな……」
かおるは、断章を使って周囲の記録を再現しようとするが――なぜか扉周辺だけ“過去の記録が消されている”。
まるで“そこにあったことが、世界から抹消された”かのように。
イリナが沈黙を破る。
「この奥にあるのは、“管理機構の中枢AI”……。そして、記録を改竄・抹消する唯一の存在――《ライター》よ」
「《ライター》……?」
「記録者の“対義語”にして、絶対記録破壊者。
そしておそらく――君のことを最もよく知ってる、存在」
アリシアが息を飲む。
「かおる……君の記憶すらも、あいつに“書き換えられる”かもしれない」
それでも、かおるは笑った。
「なら、書き換えられる前に、俺が“名前”を記録してやるよ。《ライター》ってやつのな」