第3章28【偽りの記録者たち】
深夜。焚き火を囲むかおる、アリシア、イリナ。
クロエの“幻影”も静かに座っていた。
「……記録断章って、あんなふうに“再現”できるのね。まるで、生きてるみたい」
アリシアは、少し距離を取りながらもクロエを見つめる。
複雑な気持ちがあるのは当然だった。
「クロエの記録は、俺の記憶と“同調”してる。……たぶん、本当にいた彼女の“思考”と近い」
かおるの言葉に、幻影のクロエがふわりと笑った。
『でもねアリシア、安心して。あたしの“好き”は記録だけど、あんたは“今”のかおると一緒にいられるじゃん』
「なっ……そ、そんなんじゃ……!」
アリシアが真っ赤になって背を向けた。
「そ、そもそも、こいつのどこがいいのよ……。だらしないし、意地悪だし……」
「でも、頼れるし、守ってくれる。そうでしょ?」
イリナが、ぽつりと口を開いた。
アリシアは一瞬、沈黙して――小さく頷いた。
「……ちょっとは、ね」
焚き火の炎が、彼女たちの表情を優しく照らした。
その時――イリナが一冊の分厚い記録帳を取り出す。
「これ、ずっと黙ってたけど……“異世界管理機構”の中枢記録よ。私が持ち出した、禁書」
かおるは眉をひそめる。
「これが……俺たちをこの世界に“転生させてる”元凶か」
記録帳には、こう書かれていた。
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【異世界観測記録 第00号】
目的:観測対象(転生体)による異常進化の兆候検出
手段:対象を“異世界”に転送し、原住民と交わらせて経過観察
副次効果:戦力収集・記憶抽出・人格切断による兵器化
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「……俺たち、観察されてたんじゃない。切り刻まれて“量産”される素材だったんだ」
アリシアが言葉を失い、かおるは拳を握る。
そのとき、イリナが告げる。
「このままじゃ、次は……“アリシア”が記録対象になるわ」
「……は?」
アリシアの肩がびくりと揺れた。
「王国側は、君の“聖騎士適正”を解析しはじめてる。次の記録断章が狙われるのは、あなた」
かおるは、アリシアをぎゅっと抱き寄せた。
「絶対に、誰にも奪わせない。たとえ記録がどうあろうと、お前の“今”は俺が守る」
アリシアの頬が赤く染まり、ぽつりとつぶやいた。
「……かおる、ずるい」