第3章27【クロエの断章と、選ばれし記録】
かおるは、手の中に戻ってきたクロエの記録断章を見つめていた。
傷だらけになって帰ってきたその“欠片”には、予想外のものが記録されていた。
「……クロエの、声……?」
再現記憶を起動し、断章に触れると、微かな音声と映像が再生される。
『かおる。……もしこの記録を見てるなら、あたしはもうそっちにいないってことだね』
『でも、いいんだ。だってあたし、あんたと出会えて――すっごく楽しかったから』
静かに涙をこぼすアリシアの手を、かおるがそっと握る。
『あんたは一人じゃないよ。アリシアも、セリアも、ジークも……みんな、あんたを信じてた。』
『だから、絶対に、止まるな。“記録の王”ってやつを、ちゃんとやってやれ。
最後に、ひとつだけ――』
その瞬間、記録断章が光の粒子となってかおるの体に吸収された。
「……っ!」
かおるの記憶領域に、“新しいスキル”が浮かび上がる。
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【記録能力:共鳴断章】
死者の記録を再構築し、一時的に「人格」として再現できる。
再現対象は、断章に深く残された強い意思に基づく。
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かおるの頭の中に、クロエの微笑む姿が浮かぶ。
『おかえり、かおる。あたし、また会いにきたよ』
「……クロエ」
アリシアが息を飲む。かおるの隣には、微かに光る幻影が立っていた。
そして、イリナが一歩前に出る。
「“断章再現”……君は、死者の想いすらも味方にするのか。……それこそが、記録の本質」
今、死者の意思と記録を繋ぐ力を手に入れたかおる。
それは、魔法に依存しない――でも、誰よりも強い力だった。