第2章18【侵入開始】
夜はまだ深い。だが俺たちは、闇に溶けるように動き出した。
黒翼団のアジト。外からはただの崩れた屋敷に見えるが、ジークの持ち込んだ地図と、セリアの記憶を照らし合わせれば、これは「表の顔」にすぎない。
「──あそこだ」
クロエが指さしたのは、屋敷裏手の地下口。枯れた井戸のように見えるその場所に、隠された通路がある。
周囲に視線を走らせ、俺は手で合図を出す。
先に動くのは、アリシア。
音もなく跳躍し、監視の男に近づくと──
パシッ。
小さく空気が弾ける音。男が首を押さえて崩れ落ちる。
「いつ見ても容赦ないな……」
「殺してないわよ。気絶させただけ」
無線の代わりに、手信号と視線の読み合いで連携を取りながら、次々と敵の目をかいくぐる。
ジークとクロエが後方から警戒し、俺とアリシア、セリアが前を進んだ。
井戸の底に降りると、ひんやりとした空気と、かすかな薬品の臭いが鼻を突く。
「こっち……奥に、研究棟があるの」
セリアが震える声で呟いた。
「……わかった。無理しないで、引き返す判断は俺がする」
「……ううん。行くよ、私も」
その目には、もう以前のような迷いはなかった。
俺たちは通路を進んでいく。冷たい石の壁。遠くから響く機械の唸り。
やがて、地下の通路は左右に分かれた。
「ここからは二手に分かれるわ。こっちは研究データ、そっちは実験室」
クロエが静かに告げる。
「合流地点は中央制御室。……生きて戻りましょう」
そして──
それぞれの運命が動き出す。