第2章17【闇からの警鐘】
夜明け前の薄暗い空の下、俺たちは廃村の片隅に身を潜めていた。
これから黒翼団のアジトへ潜入する。新入りの少女も同行する形だ。
クロエが手早く地図を広げ、作戦の確認を始める。
「ここの崖を迂回して裏手に回る。監視は3名。……無音でいける?」
「余裕よ」とアリシアがニヤリと笑う。
少女──“セリア”と名乗ったその子は、黙って頷くだけだった。
そんな緊張が漂う中、不意に草を踏みしめる重い足音が聞こえた。
「おっと、騒ぐな。俺だ」
現れたのは、黒い外套に身を包んだ大柄な男。──ジークだ。
「ジーク!? あんた……生きてたのか!」
アリシアが思わず立ち上がる。
「おいおい、殺すなよ。こっちはこっちで動いてたんだ」
ジークは地面に腰を下ろし、持ってきた小袋から紙束を取り出した。
「これを見ろ。黒翼団の“実験場”の設計図だ。今回のお前らのターゲット、ただの残党の隠れ家じゃねぇ」
クロエが目を細めて地図を覗き込む。
「これは……魔術刻印……いや、違う。生体強化の……」
ジークが静かに言葉を重ねた。
「“擬体兵”だ。あの少女──セリアと同じような存在が、数十体はいる」
沈黙が走る。
セリアは、肩を震わせながらも目をそらさなかった。
「……だから、行くの。私も」
カオルは、セリアの姿を見つめながら、自分の手を握った。
「……行こう、全員で。逃げる理由も、止まる理由も、もうない」
ジークはうなずきながら、背中の大剣を立てる。
「気をつけろ。敵は人の姿をしていても、心は──すでにない」
そして、俺たちは再び闇に溶けていった。
生まれたての決意を胸に、命をかける戦いへと踏み出すために。