第13章123【沈黙の対峙、虚ろな微笑】
パンコンテストの余韻が残る広場の片隅。 そこは屋台の喧騒から少し離れた小道で、仄暗い路地裏に通じていた。
かおるは足音を殺しながら、その路地の奥を覗き込む。 そこにいたのは、確かにルークとエリシア。そして、ローブの人物――その背中には、アトラス教団の印。
「……やっぱり、あの時の疑いは正しかったか」
かおるの声が、冷たく沈んだ。
アリシアがすっと隣に立ち、剣の柄に手を添える。
「どうする? ここで動く?」
「いや……まだ確証が足りない。あの印も見間違いかもしれない」
だがその時、ローブの人物がルークに何かを手渡した。 白い結晶。それはかつてイリナの遺体から回収された、“異界媒晶”と呼ばれる禁術の触媒だった。
「……あれは、間違いない」
かおるは立ち上がった。
「俺が行く。アリシア、フォローを頼む」
「了解」
路地裏に歩を進める。 その気配にルークが振り向いた。目が合う。
「……ああ、やはり来たか。君とは、いずれこうなると思っていたよ」
その微笑は、かつてのどこか温かな青年のものではなかった。 仮面の下に隠された本性が、ついに牙を剥く。
「なぜ教団と繋がっていた? 答えろ」
「理由は一つ。僕も、世界を壊したいんだ」
その言葉と共に、エリシアの背中から真紅の魔力が噴き出した。
「エリシア……お前も、か」
その瞬間、辺りの空気が裂けるように歪んだ。
かおるの拳が震え始める。 怒りではない。絶望でもない。
それは、終わらせるべき宿命に立ち向かう覚悟だった。