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第12章122【第パンと影と追憶と】
パンコンテストは予想以上の盛り上がりを見せていた。
ルルは焼き上がったばかりのパンをテーブルに並べ、審査員たちの反応に内心ドキドキしながらも、どこか誇らしげだった。
一方、かおるはその様子を遠巻きに見ながら、アリシアと共に屋台の隅へと向かっていた。
「……やっぱり気になるの? あの二人のこと」
「うん。特にルーク……あいつ、何かを探っているような目をしてた。俺たちと同じ、異世界の匂いがする」
アリシアがそっと手を重ねる。 「……なら、先に動こう。あの穏やかさを壊される前に」
その時だった。 クレアが急ぎ足で彼らのもとへやってきた。
「かおる、アリシア。ルルが……人混みの中で、何かに気づいたみたい」
「なにがあった?」
「彼女、見たらしいの。“ルークが誰かと話してる。あれ……教団の印があった”って」
かおるの眉が一瞬ピクリと動く。
「ついて来い。状況によっては――」
「ええ、逃がさない」 アリシアの声には、静かな決意が込められていた。
パンの香りが漂う広場に、不穏な風が吹く。