第12章121【揺れる視線、灯る想い】
日が昇りきる前、かおるとアリシアは街の小さな広場に向かっていた。
「今日は、どうするつもり?」 アリシアが歩きながら問いかける。
「まずはあの二人、ルークとエリシアのことを調べる。それから……ルルとクレアにも一応、話しておきたい」
「ふふ、真面目だね。……でも、それがかおるらしいかも」
柔らかく微笑むアリシア。その言葉に、かおるは照れ隠しに視線を逸らした。
広場には既に人々が集まり、小さな市が開かれていた。 パン屋のルルは今日も張り切っており、隣にはクレアの姿もある。
「かおるー! アリシアー! おはよう!」 ルルが元気に手を振る。
「おはようございます。今日も……お忙しいみたいですね」 「そりゃそうよ。今日はパンコンテストがあるの!」
「パンコン……え?」
クレアが澄ました顔で補足する。 「この街の伝統行事です。職人たちが腕を競う大会があって、ルルがエントリーしてるんです」
「へえ……それは楽しみだな」 かおるが素直に感心すると、ルルは得意げに胸を張った。
「優勝したら、あたしのパン、王都でも売れるようになるかもしれないんだからね!」
「応援しなきゃな」 アリシアもどこか誇らしげにルルを見つめる。
その穏やかな時間の中、かおるの胸中では、一つの決意が芽生えていた。
(この静けさを、守りたい)
そして……エリシアとルーク。あの二人の気配が、街のどこかで蠢いている。