第12章116【小さな祭りの足音】
「来週、小さな収穫祭を開こうと思うの」 街の広場で、アリシアが声を上げた。
「祭り?」 かおるは目を丸くして聞き返す。
「ええ。みんなで作物を持ち寄って、音楽を奏でて、少し踊ったり……。平和を祝うお祭りよ」
ミーナとヴァルドもその場にいて、顔を見合わせる。
「楽しそうです! 私、料理手伝います!」 「……俺は設営を」
そのやり取りに、かおるは小さく微笑んだ。
「じゃあ、俺は警備を頼まれてるけど……終わったら屋台、回ろうかな」
「え? それって……私と一緒に?」
「……もしよければ」
その返答に、アリシアは顔を赤くして頷いた。
——祭りの準備は、すぐに始まった。
街の人々が協力し、広場にはカラフルな布が張られ、提灯が吊るされた。
ミーナはクレープ屋台を出す準備に余念がなく、ヴァルドは舞台の土台を組み立てながら周囲に指示を出していた。
「アリシア、あの……この飾り、どうやって結ぶの?」 「ん、こうやって——ほら、蝶結び」
そんな日常の中で、街には笑い声が満ちていた。
そして夕暮れ。
かおるは一人、丘の上に立って空を見上げていた。
「やっと……本当に、やっとこんな時間が来たんだな」
傍らに立つアリシアが、彼の手をそっと取る。
「でも……私は信じてる。かおると一緒なら、どんな未来でも迎えられるって」
かおるは一瞬、戸惑ったような表情を浮かべ——やがて静かに頷いた。
「ありがとう。俺も、そう思う」
小さな風が二人を包む。
穏やかな祭りの前夜。 それは、希望と笑顔に満ちた、新たな始まりの合図だった。