第12章114【夜明け前の約束】
葬儀は静かに行われた。小さな丘の上、花が咲き誇るその地に、ルル、クレア、そして他の仲間たちの名を刻んだ墓標が並ぶ。
かおるとアリシアは並んで立ち、風に吹かれながら祈りを捧げていた。
「……こんなに急に、みんな、いなくなるなんて……」 アリシアの声は掠れていた。
「ルルは……最期の瞬間まで、笑ってたんだ」
かおるの言葉に、アリシアはそっと頷いた。
「守ってくれた。最後まで、私たちのことを——」
かおるは唇を噛みしめながら、膝をついた。
「もう、戦わないと約束しても……また、奪われたらどうすればいいんだ」
「それでも、私たちは……生きていくしかないの」 アリシアが、かおるの手をそっと握る。
——その時だった。
「こ、こんにちは……」
ぎこちない声が、二人の背後から聞こえた。
振り返ると、そこに見慣れない少女が立っていた。白いドレスに身を包み、濃い栗色の髪を風になびかせながら、どこか所在なさげに足元を見つめている。
「あなたたちが……あの、影を倒したって聞いて……来ました」
もう一人、背の高い青年が彼女の後ろから現れる。
「……俺たち、身寄りがなくて。でも、影から解放されたこの地で……新しく生きていけるならと思って」
かおるとアリシアは、顔を見合わせる。
「名前を聞いても?」とアリシア。
少女は小さく微笑んで言った。 「ミーナです。彼は、兄のヴァルド」
かおるは立ち上がり、墓標の並ぶその場所から視線を上げる。
「ようこそ。……これからは、平和を守る側として、生きてくれるか?」
ヴァルドは真剣な眼差しで頷いた。
「誓います。亡くなった方々に恥じぬように」
ミーナもまた、静かに手を合わせ、風に揺れる花を見つめていた。
新たな出会いは、いつだって突然だ。 けれど、それがまた明日へと進む力になるのだと、かおるは少しだけ、思い直していた。
夕暮れの空に、紅の光が差し込む。
失った痛みは消えない。 だが、前に進む理由がまた一つ、ここに芽吹いた。