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第11章109【パンケーキと沈黙の午後】
アリシアが姿を消してから、かおるはなんとなく調子が出ない。
村の小さな食堂で、一人、パンケーキを焼いていた。
「……焦げた」
ぼそりと呟いた声に、背後からクレアの笑い声が飛ぶ。
「かおるさん、失恋したんですか?」
「違う。ちょっと喧嘩しただけだ」
「ふうん……まあ、アリシアさんなら、頭冷やせばすぐ戻ってきますよ」
その言葉に、かおるは小さくうなずく。
一方その頃、アリシアは村の外れで、ルルと一緒に木苺を摘んでいた。
「アリシア様……怒っておられるのですか?」
「怒ってる……けど、悲しいだけかも」
ルルが手を止め、そっとアリシアの袖を握った。
「謝ってもらうだけで、気が晴れるのなら、かおる様はすぐにでも──」
「違うの。私が欲しいのは、言葉じゃない。気持ちなの」
夕暮れ。かおるが焼いた焦げ気味のパンケーキを皿に並べ、ぽつりと呟いた。
「……やっぱ、ちゃんと話そう」
その夜、ひとりでアリシアのもとへ向かうかおるの姿があった。