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第11章108【静けさの裏で、噛み合わぬ心】
朝の村はいつも通り穏やかだったが、広場の空気はどこかぴりついていた。
「なんで昨日、私に何も相談しなかったの?」
アリシアの声が低く響く。
「別に、大したことじゃないと思ったからさ」
かおるは視線を逸らしながら、無造作に言う。
「……“大したことじゃない”?あの会場の準備、裏でどれだけ調整必要だったと思ってるの?」
「だから悪かったって……言ってるだろ」
「言葉だけじゃなくて、ちゃんと向き合ってよ」
アリシアの怒気を含んだ目を前に、かおるはしばし黙る。
「……悪い、アリシア。でも、俺には俺のやり方がある」
「そうやって、いつも自分ひとりで抱え込むんだね」
言い終えると、アリシアは踵を返し、足早に去っていった。
残されたかおるは、ひとり広場に立ち尽くす。
「……はぁ。何やってんだ、俺」
その背中を、朝の柔らかな風が通り抜けた。