第11章105【まどろみと、おしゃべりの魔法】
広場の大きな樹の木陰──そこに敷かれたチェックの敷布の上に、六人は思い思いに腰を下ろしていた。
かおるとアリシア、ユーリとパフィー、そして──村の診療所からちょっとだけ抜け出してきたルルと、その隣で読書をしているクレア。
「クレアさんって、いつも本読んでるけど……楽しいの?」 アリシアが問いかけると、クレアは眼鏡の奥で微笑む。
「この世界の歴史は、調べれば調べるほど謎が多いのよ。暇つぶしには、ちょうどいいわ」
「それ、暇つぶしのレベルじゃないと思うんだけど……」 かおるがぼそっと呟いた。
一方その頃──
「ユーリさん、はい、これ……新しいハーブティー、どうぞ」 ルルが丁寧に差し出したティーカップに、ユーリは目を輝かせた。
「わあ〜! ありがとー、ルルちゃん天使!」
「て、天使なんて……そ、そんな……」 顔を真っ赤にするルルに、パフィーがちょこんと乗っかり「ピィ」(訳:照れてる〜)とちゃかす。
やがて、のんびりとした午後の空気の中、話題は子供の頃の夢へと流れていく。
「私ね、昔は騎士になりたかったの」 アリシアがそう話すと、かおるは意外そうに眉を上げた。
「意外だな。剣より魔法ってイメージあったけど」 「ふふ、兄さまの影響かしら。でも今は、こうして静かに過ごせる方が……好きよ」
その言葉に、かおるは少しだけ微笑む。
──戦いの終わりがもたらしたもの。 それは、誰かの夢の続きと、誰かの心の安らぎ。
陽が傾き始める。 紅茶の香りと、笑い声と、やわらかな沈黙が、いつまでも続くように感じられた。
「……また、こうして皆で集まろうね」 ルルの静かな声に、全員が頷く。
まどろみの中で──午後はゆっくりと、過ぎていった。