第11章104【風のない午後と、パン屋の誘惑】
昼下がり。かおるとアリシアは、村の小さなパン屋の前にいた。
「やっぱり、ここの焼きたてクロワッサンは最高よ!」 「……いや、俺はチーズパン派だな」
ふたりは袋を片手に、並んで歩いていた。村の路地裏、柔らかな日差しが差し込む。
「ねえ、あのときのことだけど……」 アリシアがそっと口を開く。
「ん?」 「ちゃんと話せて、よかった。あのままだったら、ずっともやもやしてたと思う」
かおるは頷いた。
「俺も……一緒にいるのが、当たり前になりすぎてたのかもな」 「ふふ、それって……ちょっと嬉しいかも」
そんな会話の途中、ふたりの目の前にユーリとパフィーが現れた。
「やっほー! おデート中?」 「ピィ!」(訳:ちがいます!)
ユーリの茶化すような声に、アリシアが照れ隠しにパンを口へ運んだ。
「ただの買い物よ!」 「えぇ〜、どう見てもラブラブじゃーん?」
かおるはため息をつく。
「ユーリ、パン食べたいなら素直に言えよ」 「わーい! かおる、優しい〜!」
結局、買ったばかりのパンを分け合い、四人(?)で広場の木陰に座り込む。
──戦いの終わった今。 こんな小さな、なんでもない時間こそが、きっと大切なのだろう。
「ねえ、次はどこ行く? 小さな湖、見に行かない?」 「いいな。パフィーも連れていけるし」
「ピィ!!」(訳:大賛成です!!)
風のない午後。パンの香りと、ふたりの笑顔が、ゆっくりと満ちていった。