第11章103【すれ違い、そして──】
朝霧がまだ残る中、村の広場では今日も静かな一日が始まっていた。
「……行ってくる」 「待って、かおる」
背中越しにアリシアの声が響いた。
「昨日のこと、ちゃんと話して」
かおるは肩をすくめた。些細な言い合いの名残が、まだ二人の間に漂っている。
「……別に、怒ってるわけじゃない」 「でも、なんで勝手にあんな危ない場所に行ったの?」
きっかけは昨日の午後。かおるがユーリの提案で村外れの遺跡跡地に単独で調査に向かったことだった。
「言っただろ? 危険はなかった」 「それを、どうして私に言ってくれなかったの? 私、かおるのパートナーだって……思ってたのに」
アリシアの声は震えていた。
「……ごめん。でも、俺は……」 「いつもそう。自分一人で全部背負って……。私じゃ、頼りないの?」
痛いところを突かれて、かおるは言葉を失った。
「アリシア……そういう意味じゃない。ただ、危ないことに巻き込みたくなかったんだ」 「私は、巻き込まれたっていい。一緒にいたいの。……それじゃダメなの?」
静寂。
ふたりの間を、朝の風が通り過ぎた。
「ごめん……本当に。俺、間違ってた」 「……うん」
その場でアリシアが涙を拭って立ち上がる。
「仲直り、してくれる?」
差し出された手を、かおるはそっと握った。
「もちろん」
その瞬間、いつものアリシアの笑顔が戻ってきた。
──ほんの小さなすれ違いだった。 でも、こうやって一つ一つ乗り越えて、ふたりは少しずつ強くなっていく。
夕暮れ、縁側で並んで座るふたり。
「ねえ、明日はどこ行く?」 「……君が行きたい場所なら、どこでも」
頬を染めたアリシアが、そっと微笑んだ。