第11章101【魔道具は静かに暴れる】
祭りの翌朝、村はどこかぽわんとした空気に包まれていた。
かおるは朝食のパンをかじりながら、昨夜の灯籠の光景を思い出していた。
「おはよう、かおる」 「お、おはよう……アリシア」
アリシアがキッチンのカーテンを開けた瞬間、ふたりの視線が交わる。 照れたように目を逸らすと、彼女もくすりと笑った。
「今日は何しようか?」 「のんびりしてたいけど……そういえば、ルルが何か作ったって言ってたな」
その瞬間、窓の外からドーンという爆音が響いた。
──ルルの家の屋根から、無数の泡がもくもくと噴き出していた。
「やばいやばいやばい!爆泡浄化くんが暴走してるーっ!」
魔道具職人ルルは、試作品の掃除魔道具を暴走させていた。
村中に泡が広がり、つるつると転ぶ子供たち、泡に包まれて大笑いする村人たち。
「ルル……またやったのか」 「実験成功ってことで許してよ〜!」
クレアが溜息をつきながら泡を剣で切り払い、かおるはホウキを手に村人と一緒に後片付けを手伝った。
──戦いのない日常は、こんな騒がしさすらも心地よい。
夕暮れ時、アリシアとふたり、泡に濡れた庭で腰を下ろす。
「今日も騒がしかったね」 「でも、笑顔が多かった。悪くないよ」
並んで座る肩が少しだけ触れた。
陽は落ち、風が涼しく吹き抜けていった。