第10章96【焔の咆哮】
セラの亡骸を抱きしめたまま、かおるは動かなかった。
アリシアが肩に手を置く。「かおる……今は、逃げないと……」
その瞬間、空が裂けた。黒い亀裂から現れたのは、アトラス教団の“黒翼の賢者”──教団幹部、最上位。
「これで終わりだと思ったか? 我らは千年、ただの礎を求めて動いている。お前たちなど──」
言葉を遮るように、かおるがゆっくりと立ち上がる。
「……黙れ」
その瞳には、かつてない炎。
「お前たちが、俺の仲間を──セラを、殺したんだ」
空気が振動し、地面が裂ける。かおるの魔力が制御不能なほど膨れ上がり、赤黒いオーラが周囲を包み込んだ。
「アリシア、下がってろ。これは……全部、俺が終わらせる」
アリシアは何も言えなかった。彼の背に、今まで見たことのない“死神”のような気配を感じたからだ。
黒翼の賢者が呪文を唱えるよりも早く、かおるはその首元に手を突きつけた。
「これが、お前らの“正義”かよ──だったら、俺は喜んで全否定してやる」
炸裂音。閃光。断末魔。
賢者は抵抗する間もなく、その肉体を魔力で焼き尽くされ、塵となって散った。
かおるは肩で息をしながら、戦場の中心に立ち尽くす。
その姿は、誰よりも悲しみに満ちていた。
「もう誰も、死なせねぇ。俺は──終わらせる。全部、全部だ」