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第10章94【影の終焉】
黒い影が地を這い、塔の外に染み出していく。アトラス教団の尖兵たちが姿を現し、魔導を帯びた呪装兵が数体、セラ=ノクティスに迫る。
「彼らは、私の残滓を求めている……」
セラは微笑みながら、紅い欠片をかおるに押し込んだ。
「あなたが持つべきものよ、これは」
「待て、セラ! 一緒に戦おう!」
だが彼女はかおるの頬に手を添えた。「ありがとう、でも私は、あなたの中に戻るべき存在」
その瞬間、呪装兵の攻撃がセラを貫く。
魔力が炸裂し、周囲が紅く染まった。
アリシアが叫ぶ。「セラ!!」
血を吐きながら、セラは笑った。「……私の願いは、一つだけ。かおるが、“かおる”として生きてくれること」
彼女の体が光に包まれ、ゆっくりと霧のように消えていく。
かおるはその光を胸に抱くように、両手で包んだ。
「……ありがとう、セラ」
アトラス教団の残党は撤退し、静寂が戻る。
空には、セラが消えた空間に、星がひとつだけ瞬いていた。