第10章92【前世の残響】
まばゆい閃光が収まると、かおるたちは不思議な空間にいた。
そこは記憶の断片でできた世界。周囲には浮遊する書類や器具、白衣をまとった人々の影。
セラが唖然とした声を漏らす。「……ここ、どこ?」
「過去の記録の中。かおる様の魂に刻まれた“前の生”の記憶」クレストの声が響く。
目の前に、檻に閉じ込められた少年がいた。
血まみれで、何度も実験を繰り返されながらも、その目だけは諦めていなかった。
かおるは確信する。「……あれ、俺だ」
少年の胸には、魔法陣のような焼き印――“記号”が刻まれていた。
「彼は“α(アルファ)”。最初に魂を分割された転生体」クレストが言った。
「そなたの魂は、そこから分かたれたもののひとつじゃ」
アリシアが凍りついた表情を見せる。「……つまり、かおるは……オリジナルじゃない?」
クレストは静かにうなずいた。
「そう。そして、あの少女――“影より出でし少女”は、αの魂の“負”の側面を持つ欠片」
かおるは言葉を失い、ただ“かつての自分”を見つめ続けた。
少年が最後に叫んだ言葉が、空間に響き渡る。
「……誰か、助けてくれ……俺は……人間だ……!」
その瞬間、かおるの胸に強烈な痛みが走る。
視界が歪み、記憶の世界は崩れ始めた。
クレストの声が再び響く。「この記憶は深すぎる。そなたの魂が壊れる前に、戻るのじゃ!」
アリシアがかおるの手を握る。「かおる、帰るよ……一緒に……!」
かおるは頷き、意識を現実へと引き戻した。
戻ってきたとき、彼の瞳はわずかに赤く染まっていた。
そして、心にひとつの誓いが刻まれていた。
「俺は……すべてを知る。そして……過去の俺も、未来の俺も……守ってみせる」