第10章91【記録の番人】
金色の光に包まれた空間で、かおるたちは老賢者の後に続いて歩いていた。
その先には、天井の見えないほど高く積み重なった書物の塔――“記録の書庫”がそびえていた。
「この場所は、選ばれし者しか辿り着けん。転生、禁術、そして“魂の連結”に関するすべての記録がここに保管されておる」
老賢者は振り返る。「わしの名はクレスト。この書庫の番人を任されておる」
セラが鋭く問う。「さっきの少女は何者? “原型”って……」
クレストは静かに頷く。
「彼女は“調停の前”に存在した魂の欠片。過去、転生術の実験で捨てられた存在じゃ」
かおるの心に、かすかな痛みが走った。
自分もまた、転生という枠組みの外にいる“違法な存在”――共鳴する何かを感じていた。
「彼女は……敵なんですか?」アリシアが問う。
「それは、そなたたちの選択次第じゃ。彼女は本能で“欠けたもの”を求めているにすぎぬ」
クレストは歩を止め、大理石の円卓の前に立つ。
卓上には七つの封印された本が置かれていた。
「そなたたちに選んでもらう。どの知識を開くかは一つだけ。その選択は、この先の運命を左右する」
かおるは本を一冊ずつ見渡した。
一冊には「転生術の起源」、別の本には「違法転生者の系譜」、さらに「魔王の記憶断片」など、見るからに不穏な文字が並んでいた。
「どれを……」
そのとき、アリシアが小声で囁いた。「“魂の連結”。……私は、それが知りたい」
かおるは頷いた。そして、表紙に『魂環論の基礎』と刻まれた古びた本に手を伸ばす。
開かれた瞬間、光が爆ぜるように広がり、三人の意識が浮遊する。
そして、見せられたのは――
血塗られた実験場、悲鳴、焼かれる書類、そして……“かおるの顔をした別人”が、静かに泣いている姿だった。
「……これは、俺……じゃない……誰だ……?」
その時、クレストの声が響いた。「それは、そなたの“前の魂の記憶”じゃ」
かおるの視界が揺れる。
「俺の……本当の過去?」