第10章90【影より出でし少女】
衝撃波が過ぎ去った後、かおるは土のような冷たい感触を感じて目を開いた。
「……アリシア、セラ!」
二人はすぐ近くに倒れていたが、幸い意識はあった。
アリシアが苦しげに言う。「あの少女、ただ者じゃない……力の質が違う」
セラも唇を噛む。「ありゃ……人間じゃない。おそらく、“調停前”の存在」
少女は再び姿を見せた。
その足元に、黒い霧が渦を巻く。周囲の空間がまるで生き物のようにざわめいた。
「“原型”を返せ……」少女は繰り返す。
「俺は、お前が誰なのかもわからない……けど、こっちに危害を加えるなら容赦はしない!」
かおるの掌が淡く輝き、異能の力が顕現する。
だが、次の瞬間、少女の姿が消えた。
「ッ!? どこに――」
背後から斬撃の気配。とっさにかおるが身を翻すと、そこには少女の姿があった。
“時を操る”ような動き。
「……あれ、転移じゃない。もっと根源的な……存在の位相をずらしてる」アリシアが低く唸る。
その戦闘が苛烈さを増す中、突如、空間にひびが走った。
少女の動きが止まる。「……あの声……」
空の裂け目から、荘厳な金色の光が差し込む。
声が響いた。「ここは“記録の地”だ。これ以上の交戦は許可されていない」
光の中から、ローブをまとった老賢者が現れた。
「おぬしたち、試練を受ける資格がある。だが……まずは語らねばなるまい。すべての始まりを」
少女の姿は霧のように消え、再び静寂が戻った。
かおるは拳を解き、老賢者を見つめた。
「……あんたは何者だ?」
老人は微笑を浮かべて言った。
「わしは“書庫の番人”。転生と記憶、そして“違法なる存在”の監視者じゃ」
かくして、かおるたちは“失われた書庫”の真実へと足を踏み入れる。