第10章88【微睡みの午後、交わされる決意】
新たなたたかいの幕開け…。
戦いの翌朝。村には穏やかな陽射しが差し込んでいた。
村の広場には人々が集まり、安堵の表情を浮かべていた。前夜の襲撃による被害は最小限に留まったが、深い不安の余波は村全体に残っていた。
かおるは、村の長である年老いた男の前に立っていた。
「……昨日の襲撃、あれは一体……」
「敵の狙いは俺だった。村の人たちを巻き込んでしまったのは、俺の責任だ」
かおるは深く頭を下げた。
村長はしばらく沈黙し、それから静かに頷いた。「だが、お前がいなければ村は滅んでいた。……これからも力を貸してくれ」
「はい」
その場を離れたかおるは、広場の片隅で村人の手当てをしているセラを見つけた。
「セラ、怪我はないか?」
セラは手を止めて微笑む。「こっちは平気。あんたのほうがよく無事だったね」
「お前の支援がなければ、どうなってたかわからない。……ありがとう」
その言葉に、セラは少しだけ顔を背けた。
「ふん……今さら礼なんて。まあ、いいさ。どうせ放っておけないんだし」
その言葉に笑みをこぼしつつ、かおるは森の中の一角へと足を向けた。
そこには、剣の手入れをしているアリシアの姿があった。
「アリシア」
彼女は振り向き、穏やかに笑った。「かおる……来てくれると思ってた」
並んで腰を下ろす。森の奥から鳥のさえずりが聞こえた。
「昨日の戦い……怖くなかったのか?」
「もちろん怖かった。でも、それ以上に……あなたを守りたかった。そう思ったのは、私自身の意思よ」
アリシアの瞳には、揺るがぬ光が宿っていた。
「私は、かおると共にこの世界を見たい。敵が現れようと、私の居場所は、あなたの隣」
その言葉に、かおるの胸の奥が熱くなった。
「……ありがとう。俺も、お前と共に歩みたい。どんな困難が来ても」
ふたりは短く唇を重ねた。
その優しさに、戦いの記憶が少しずつ癒えていくのを感じた。
だが――
そのころ、遥か西の山岳地帯。
黒き衣を纏う男が、エルリナの帰還を迎えていた。
「エルリナ……失敗したのか」
「いえ。想像以上の収穫がありました。彼は鍵を、無意識に目覚めさせていた」
「ふむ……ならば、次は“彼”を解き放つときか」
「ええ。第二の影を――転生違法の“原型”を」
暗雲が蠢き始める中、静かに新たな計画が進行していく。
一方、村では。
かおるたちが次の行動を決めるため、再び仲間を集めつつあった。
「敵は必ず来る。そして今度は……俺たちだけじゃ止められないかもしれない」
アリシアが頷く。「でも、一緒なら乗り越えられる」
セラも背を向けたまま、ひと言だけ言った。「次は、後ろは任せなさい」
こうして、かおるたちは次なる地――"失われた書庫"を目指す旅へと、再び歩き出す。