第1章10【ギルド襲撃と、はじまりの決意】
ラストリアの街は、いつものように穏やかだった。
だが、その静けさは長く続かなかった。
ギルドの建物の壁が、突如として爆風で吹き飛んだ。
「ッ!? 何だ――!」
外にいた俺は、轟音とともに土煙をあげるギルドの方を振り返る。
瞬間、ギルドの中から血まみれの冒険者が飛び出してきた。
「襲撃だぁ! 黒いマントの連中が――!」
黒いマント。その言葉に、クロエの言っていた“敵勢力”が脳裏をよぎる。
「アリシア、ジーク、急げ!」
俺たちはギルドへ駆け込んだ。
内部はすでに戦場だった。
倒れた受付員、剣を交える冒険者、そして……
「な……にあれ……」
マントの男たちの背中には、“黒い翼”の紋章が刻まれていた。
「黒翼団……!」
クロエが短剣を抜き、敵に突っ込んでいく。
その動きは軍仕込み。完全に“処理する”速度だった。
「新人くんたちは後ろで――」
「いや、行く! 俺たちもギルドの一員だろ!」
気づけば、俺は剣を握って前に出ていた。
恐怖もある。でも、それ以上に怒りがあった。
仲間を、守りたい。
「カオル、左! 来るわよ!」
アリシアの声に反応して体をひねり、背後の敵を切り払う。
俺とアリシア、ジークの三人が背中を預け合って戦う。
少し前まで“素人”だった俺が、いま戦場の中にいる。
やがて、ギルド長とクロエが敵のリーダー格を討ち取り、黒翼団は撤退した。
――だが、これは“始まり”に過ぎなかった。
クロエが、薄く微笑んでつぶやく。
「黒翼団は、私たちを“探して”来たのかもしれないわね……」
その意味は、まだ誰も分からなかった。
ギルドは破壊され、犠牲も出た。
でも、俺たちは生き残った。そして、前へ進むしかない。
「アリシア。俺、強くなるよ。……もっと守れるように」
彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑った。
「うん。じゃあ、私も負けてられないわね」
俺たちは、瓦礫の中で誓い合う。
これが、冒険の“本当のはじまり”だった。