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スピンオフ 明

◆記憶の中のパーティー

あきは、悩みを抱えていた。どうしても思い出せないのだ。幼少期、章平と一度会っていたその光景を。おそらく、何度も開催したパーティーの来客に伊集院一族が来ていて章平は自分のことを見たのだろう、それで「会った」と言ったのだろうと推測した。

しかし、それであれば「見た」というのが正しいのではと思うようになり、もう一度幼少期の今残る記憶を、殊更にパーティー開催時の記憶を矢継ぎ早ではあったが振り返った。

すると、おぼろげながら自分より年齢が少し下と思われる男の子が現れた。同時にあの時の見世物となっていた自分や恐ろしかった記憶まで鮮明に思い出して気持ちが塞がった。

あきはすっきりしようと章平に尋ねに行こうとするが、以前章平を怒らせたことを思い出し、話しかけづらさを感じたため、それを断念した。


◆訪れ

それからというものの、あきは章平を目で追うことが多くなった。

章平は、時に真剣に自らの製作物を見ていたり、時に無邪気に笑っていた。そして、戦闘中は勿論勇ましく戦っていた。一度だけ聞いた章平の一族の全滅、それを感じさせない頼もしさを醸し出していた。

あきは、こう改めてじっくり章平を見たことはなかった。なんて素敵な弟分なのだろうと思った。

すると、心地よく温かい気持ちが心の奥底から湧き出てきた。そして、それ以降は、章平を見るたびに胸が高まるように。

あきは、自分が噂に聞く「恋」をしたと自覚。初めての経験だと思ったが、相手の章平は自分に怒りしか抱いてないだろうと悲しい気持ちになった。


◆壊れる

あきは、一族への抵抗として一族の教えになく、むしろ忌み嫌われた「粗暴さ」を時々取り入れてみているせいで再び章平が製作した物を小規模ではあるが破損してしまった。また修理を依頼しなければ戦闘に支障が出ると思い、恥を忍んで修理依頼に再び章平を訪れた。

章平は、深いため息のあと修理を請け負った。そして、お嬢様は物を壊すのが趣味なんだと嫌味を言ってきた。

あきはそうだとしながらも、急に悔しい思いが涙として溢れてきてしまう。

章平は、驚きながら言い過ぎたと思い、謝罪しようと立ち上がるが、あきは退出していってしまった。

あきは、やはり自分は章平に釣り合わないと自室で声を殺し泣いた。


◆心配

それからというものの、あきは悲しい気持ち、章平は戸惑いの気持ちを抱えたまま過ごすことになる。

そんな状況にももらまで巻き込まれていく。

あきは、ももらの治療を受けている最中、上の空で治療終了に気づかない時が増えた。

章平は、手元が狂うという瞬間を手伝い中のももらに何度も見せてしまっていた。

ももらは、2人に何があったのだろうと心配し、うっちーに相談する。うっちーは、喧嘩じゃなさそうなので、自分の管轄外、見守るしかないのではと言った。ももらは、それを受け入れるしかなかった。


◆直る

章平は何度も手元が狂いながらもあきから依頼された修理を終える。返さなければならないのだが、あきの涙を忘れられず、声をかけづらい状況が続いた。

ももらが、とっくに修理を終えているものを章平が放置していることに疑問を抱き、尋ねてきた。章平は、事情を説明し、あきのもとへももらに届けてほしいと依頼。

ももらはそういう事情なら受けられないときっぱり。そして、泣かせたのなら、謝るべきと、あきを呼びに行ってしまった。

章平は慌てたが、腹をくくる時とあきの来訪に備えた。そして、ももらに連れられたあきが入室してきた。

少しの沈黙が流れる。ももらは後は2人の話だからという理由で部屋から退出していった。

2人は、なんとなくももらに同席してもらいたかったと同じ思いを抱いたが、それを振り切ることにした。

章平は、修理が終わった物をあきに引き渡した。そして、この間は言い過ぎたと謝罪。

あきも、あの場で何故自分が泣いてしまったのかいまだにわからない。章平のせいではないのかもしれないと本心を隠した返答をした。


◆質問

あきは、いい機会と思い、以前断念した章平への質問を投げかけることを決心。以前、聞いた幼少期の話をするが、章平は、あの自作のおもちゃを探していた男の子かと。あれから必死になって思い出した、間違いないかと。

章平は、目を丸くした。そして、その男の子は自分で間違いないと言った。あれだけパーティー会場を一緒にあきが探してくれたのになぜ自分を忘れてしまったのかと尋ねてきた。

数多く開催されたパーティーの客をすべて覚えていられるほど自分は大人ではなかったとあきは謝罪。

章平は、そういうことならば仕方がないと返した。しかし、あの出来事はとても幸せなことだったとも言った。

あきは、過去の自分が章平に幸せを与えてやれていたことに驚く。一方、章平に恋をした今の自分は不快感しか与えていないことを悔いた。すると、あきは再び悔し涙を流し始めてしまった。

章平は、今度は嫌味を言っていないはずなのにあきが泣き始めたことに動揺。まずは、原因不明だが謝罪をする。あきは、章平は悪くない謝らないでほしいと言いながら部屋を後にしようとする。

しかし、今回は章平はあきを引き留めた。


◆切り捨て

あきは、自分を解放してほしいと言うが、章平はこう何回も自分の前で泣かれては困る、原因がわかるまでこの部屋からは出さないと出入口に立ちはだかった。

あきは、そんな章平に降伏。ひととおり気持ちが収まるまで泣いた後、章平にまずは謝罪。そして、いい機会だから、上級家庭出身者同士家のことを話さないかと提案。章平は急な提案に驚いたが、話をすることを決めた。

あきは、本心を隠しながら自分がいかに最低な女か章平に知ってもらうことにより、この恋が成就する芽を摘もうとしたのだ。

そして、自分が産まれてからの話をし始めた。一族が自分のアビリティを利用していたことを全てさらけ出した。章平と出会ったのは、その一環のパーティーだったと言った。

章平は、顔をしかめた。しかし、すぐに自分の産まれてからの話をし始めた。幸せだった小さな頃、戦闘組織に全滅させられた家族や執事他のことを。

お互い辛い状況だったとあき。それに章平は噛みついた。

章平は、その一番辛かった時期、「ユーロ」に保護された際にあきを見て、同じ上級家庭の人に自分の悲惨な体験を聞かせて動揺させたくないと思った。だから、あきだけには一族全滅の件は口止めしたというのに、その後のあきは、その配慮が無駄のような態度しか見せなくて本当に悔しかったという。

あきは、そうだ自分は最低な女だ。章平の中の自分を幼少期の思い出ごと消せと言った。自分は、自分を捨てた家に反抗したくて今の自分がある。そして、その反抗したいと思っている家に戻り、親などに甘えたい願望も併せ持つ馬鹿な女とも付け加えた。

章平は、それでも仲間となったのだからこれからも付き合っていくつもりだと言った。

あきは、強いお坊ちゃんと章平を評した後、強いのだから自分を卑下して生きて行くことも可能だ、是非そうしてほしいと言い、答えを待たずにその場を去った。


◆掘り起こされるもの

あきは、短い恋だったと、自分に言い聞かせながら再び泣きたくはなったが我慢した。泣く資格などないと。

一方、章平は、あきから聞かされたことを心の中で反芻していた。結局問いへの答えをはぐらかされたような気がすると思った。原因がわからないまま、またあきと顔を合わせたら、泣かせてしまうかもしれない、あきの泣き顔は自分にとって辛いと思い始めた。

すると、何故辛いのか自問自答するようになり、あきとの出会いから今までを振り返った。やがて、結論が出た。あきは自分にとって初恋の相手だったと。そして、今もきっとその思いは変わってはいない。あきの性格が変化したことと、あきが自分を覚えていなかったことにこの何年間拗ねていただけと考えるようになった。

再度あきの先ほどの話を反芻すると、随分あきは一族に対して心に毒を抱えているようだ。そんなあきに毒舌を吐くなどした自分こそ最低な男だと思うようになった。

そして、せめてもの罪滅ぼしにあきの一族への毒をひとつ残らず自分に吐き出してもらおうとあることを思い付いた。


◆雨中の修練

日を改め、章平はあきを戦闘訓練場に呼び出した。2人で戦闘訓練をしようと。あきは、急な提案に疑問を抱いたが、その話に乗った。

すると、章平は、ついでに自分の一族への悪口でも叫びながらやると気持ちいいかもしれないと提案。あきは、前話したことで全部だ、新しい話などないと返したが、章平は、事実を再び聞きたい訳じゃないと答える。そして、対戦方式で訓練しようと章平はあきからの攻撃を催促した。すると、雨が降り始めた。

最初は無言での訓練だったが、章平が途中あきの一族への恨み辛みはここで我慢できるほど弱いものだったのかと煽る。

あきは仕方ないとしつつ、一族への思いを叫びながらリストレイントで何度も章平を攻撃し始めた。それを受け、章平はトラッキングで攻撃を無効化する。その度にあきへの慰めの言葉をかけた。

あきは一族への罵詈雑言をエスカレートさせていったが、同時にだんだん自分が情けなくなってくる。恋心を向けているとはいえ、年下の男に甘えてしまっていると。攻撃の手を緩めず、何故そこまで自分にしてくれるのかと章平に尋ねた。

すると、章平はトラッキングを止め、あきのリストレイントを真っ正面から受け入れた。

そして、こう言った。「そんなの決まっているよ、君に、僕の心が縛られてるんだから。」と。

あきは赤面しリストレイントを解除。

動けるようになった章平は、あきに自分だけには甘えてほしい。自分はそれに幸せを感じたいとあきを抱き締めた。

雨は上がって、空は青空を見せていた。


◆風邪襲来

それから数日後の朝、あきと章平はいっこうにそれぞれの部屋から出てこない。章平は製作活動をしている時は部屋にこもる時がしばしばあるため、さほど心配されてはなかったが、しっかり定時に起床してくるあきは皆が心配した。

そんなあきをももらが様子を見てくることが決まり、部屋のドアをノックした。しかし、返答がない。少し大きめの声でももらはあきを呼ぶが、それでも返答がない。

心配が募ったももらは無許可で入室。あきは薄く目を開けていたものの、ぐったりしていた。ももらは駆け寄った。あきはやっと一言、気分が悪いと。大変と、ももら。

そんなももらだったが、ある懸念が心をよぎった。章平もそうなのではと。そちらも心配になり、ももらはあきの世話をそこそこに章平のもとへ行った。

章平は、懸念通り激しい頭痛を訴えこちらも動けない様子だった。

2人は同時に風邪をひいてしまった。

ももらは、蒼虎にその事を報告、「ユーロ」の治療担当として2人の看病を引き受けた。

ももらはセラピーで2人の風邪症状を快方に導いた。しかし、大事をとって数日は休むことになった。

その数日は、お互いにとってお互いへの思いを整理する時間となった。

そして、休み明け2人は対面した。そして、あきは雨中の訓練への感謝を伝えた上で章平にこう言った。「こんな私に、これからも縛られてくれるかしら?」と。章平は、勿論と答えた。


◆断絶の決意

あきに章平はある日提案をする。あきが、そしてあきの一族が許せば、あきの一族にあきの夫として加わりたいと。

あきは、突然の章平からの求婚に喜びの気持ちが溢れそうになった。しかし、すぐに冷静になり、そんなのは駄目だ、伊集院家を断絶させる気かと章平に問う。

章平は、ギリギリまで伊集院一族の再興を考えていたが、あきの一族の話を聞いてあきの一族は何かがおかしい、それを是正するのが自分の使命と思うようになったと。

あきは、自分の事情を話したのは間違いだった、忘れてほしいと言い、むしろ自分が伊集院一族の再興に手を貸すべきなのにと続けた。

章平は、自分が伊集院一族の当主であり、唯一の構成員だと言った。その自分が決定したこと、それは伊集院一族の総意なんだと。その総意を覆すつもりは毛頭ないと返す。

あきは、章平が茨の道を歩むかもしれない、壮絶な体験をした章平には平穏な生活をさせてやりたいと、なおも抵抗する。

章平は、以前、自分があきに自分だけには甘えてほしいと言ったことを忘れたのかと言いつつ、平穏な生活がほしければ、自分の手で作ってみせる、「ユーロ」で色々な物を作ってきたようにと言った。そこには、優しいあきが隣にいることが第一条件だと続けた。

あきは、過去の自分に戻れるか自信がないと言った。

すると、章平は自分の一族を追って逝くことも選択肢にある。阻止したければ自分を受け入れるしかないのだと脅迫めいたことを言い始める。あきは、それを受け、死んでは駄目だと慌てて言った。

章平は自分の死を止めてくれるのかと問う。あきは当然と答える。

それでこそ優しいあきだと章平。あきはここで降参した。

更に、駄目押しが如く、章平はあきに優しく口付けをする。あきの体から力が抜け、それ以上の抵抗は不可となった。

その後、章平は、蒼虎ら「ユーロ」のメンバーにあきと婚約したと発表した。一様に驚くメンバー。ももらは尚更驚いた。


◆戦場の現実

「ユーロ」は、「アーロス」の存在に近づき、アーロスの怒りを買った。


◆選ばれる2人

その日の戦闘は、様子が違った。そして、ももらはこれはアーロスの仕業に違いないと言った。あきもそんな感じをこの戦闘から受けていた。

次第に激しくなる戦況、万事休すと思われた。それを受け、ももらは悲鳴のように大切な人を傷つけないでと叫んだ。あきは、同感だと思った。章平もボロボロだったからだ。

その時、聞いたことのない女性の声が響いた。ももらに、アーロスの所に行くときだと。更に、1人助ける者を連れて行くことも可能だと言っていた。

ももらは、刹那の迷いを見せた後、自分なんかより、あきと章平の方が奇跡を起こせるかもと言った。そして、知らない女性の声に2人を導いてほしいと要望。女性は、聞き入れた。

急な指名に戸惑うあきと章平。しかし、戦いが止められるならと強い意思でこれを引き受けた。

ももらは決断に感謝しながら、自らのセイクリッド・シードのフリーダムを何かの役に立ててとあきと章平に手渡した。

すると、あきと章平は神々しい光に包まれ、その場から姿を消した。


◆神に与えられる2つのもの

うっそうとした空間だった。あきと章平がたどり着いたのは。

生えている木に寄りかかり、虚ろな目をした男がいた。あきはアーロスかと尋ねた。

男はいかにもと返し、2人に戦いを止めに来たのかと問う。

2人は当然と答えた。その瞬間、おどろおどろしい蔦が2人を縛り付けた。

蔦のトゲは、2人に容赦なく突き刺さった。そこから流れて来たのは、毒などではなく、グローバル・バンダリズムの真実だった。

あきは、その衝動を自分が抑えてやると宣言。

章平は、その先の希望を与えたいと言った。

そして、2人は痛みを耐え、おどろおどろしい蔦から自ら脱出。

2人は、預けられていたももらのセイクリッド・シードのフリーダムを使用した。それはウェナースの力に反応していたのか、あきと章平のアビリティとフォースを融合させた。

あきはチェックメイト・リストレイント、章平はウィッシュ・トラッキングを発動した。

章平の力が悪の力を無効化し、あきの力の通り道を作る。あきの神聖なる光の蔦はアーロスを拘束。その蔦づたいに章平の持つ希望がアーロスに流れ込み、同時にあきに託されていた抑止の心もアーロスに与えられた。

アーロスは、精悍な表情を浮かべ、あきと章平に自分を止めたことに感謝した。その上で希望をくれた2人をあるべき所へ導くと言った。

すると、あきと章平は、禍々しい木々が消え、清々しい空間へと変わったアーロスの部屋から姿を消した。

戻った先には平穏さを手に入れた大地が広がっていた。


◆作る。未来を。

その日、発行された官報の会社設立の欄に、「株式会社薬師寺製作所」という会社があった。所在地や日付と共に、代表取締役社長、薬師寺章平、代表取締役副社長、薬師寺明菜と書いてあった。

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