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復元師エーヴィヒは明日を語らない  作者: 音郷
ひび割れたカップ
4/12

04 

 


 計画の実行日となり、ラッセルは待ち合わせ場所である都市門前へとやって来ていた。

 早朝ではあるが、交易都市なだけあり人で溢れかえっている。その多くは商人達で、街へと入る前にここで荷物検査を受けるのだ。

 違法取引を排除するため、今日も役人達は忙しなく彼等の荷物を精査している。


 時折響く役人の呼びかけが混ざり合い、混沌とした喧騒の中、ラッセルは目的の人物であるフィルマを探す。

 アルトの話では、フィルマは特徴的な人物であり、見ればすぐ分かるとのことだった。しかしながら、この人混みの中では探すのが困難であり、中々それらしい人を見つけられない。


「貴方がラッセル殿かな?」


 ラッセルが目的の人物を探すのに難航していると、はきはきとしたよく通る声で自身の名前を呼ばれる。その響きはざわめく雑踏の中でもはっきりと耳に届いた。

 突然の呼びかけに、ラッセルは驚きつつ振り返る。

 そこにいたのは、地竜の背に悠然とまたがる若い女性だった。青銀の軽鎧に身を包み、金の瞳がまっすぐにこちらを見据えている。


「あ、ああ。もしかして、君がアルト君の言っていた…」

「そうだ。中央騎士団グレーステ支部、飛竜隊所属のフィルマ・ヴァルトだ。よろしく頼む」


 フィルマは地竜から降り立つと、丁寧に自己紹介をし、ラッセルに右手を差し出す。


「ああいや、こちらこそ頼む」


 背丈は女性にしては高く、波打つ真紅の髪が陽光を受けてきらめいている。加えて、その瞳は獅子を彷彿とさせるほど鋭く、まるで獲物を狩らんと言わんばかりに爛々と輝いている。

 一目見れば忘れることのない印象的なその容姿に、ラッセルは確かに、とアルトの言葉に納得した。


「それにしても、この人混みの中でよく私だと分かったな」


 ラッセルも、普通の人よりかは特徴的な険しい顔付きをしている。しかしながら、数百人以上いる人混みの中で、的確に見つけられる容姿をしているかと言われればそうでもない。


「アルトから事前に人相は聞いていたのでな。それに――」


 フィルマはふっと笑みを浮かべ、ラッセルの服装を指さす。


「ラッセル殿の格好を見れば一発で分かる」


 ラッセルはそう言われ、自身の格好を見下ろす。

 防寒性の高い厚手の上着に丈夫なズボン、脚には登山靴。まるで今から山へ籠るつもりかという装備は、なるほど確かに周りの人と比べれば浮いて見える。


「すまない、もう少しわかりやすい待ち合わせ場所を設けるべきだった」

「いや、謝罪は不要だ。こうして無事会えたのだからな。ところで、フィルマ殿の姓だが――」


 ラッセルはふと、彼女の名乗った“ヴァルト”という姓に引っかかりを覚えた。

 ヴァルト家と言えば、交易都市グレーステを統治する伯爵家の名だ。

 世情に疎いラッセルでもそれくらいの事は知っている。


 しかし、もし仮にフィルマが伯爵令嬢であるとなると、少しばかり困ったことになる。

 何故ならラッセルは医者の道しか通って来なかったため、貴族社会の礼儀作法とは縁遠い世界で生きて来たからだ。

 それでなくとも不器用な性格をしているのに、今更染み付いた所作を変えるなど不可能でしかない。


「ああ、確かに私は伯爵家の出だが……そう畏まる必要はない」


 フィルマは肩をすくめ、気軽な口調で続けた。


「令嬢という柄でもないのでな。気軽に接してくれると嬉しい」


 ラッセルの心配は杞憂で終わった。

 どうやら彼女は、貴族という立場を笠に着て驕る様な人種では無いらしい。

 ラッセルはその事に安堵した。


「そう言ってくれるとありがたい。改めて、ラッセル・ホーウェンという。よろしく頼む。それから…無理な願いを聞き入れてくれたこと、感謝する」


 2人は軽い挨拶を終えると、竜車に乗り込み目的の場所へと出発した。



 ※※※



 街中ではあまり使用されない竜車は、長距離を移動するのに非常に役立つ。

 飛竜と違い、地竜は穏和な性格をした種であり、一般人でも認可さえ得ていれば誰でも飼育を許可されている。そのため、行商人や運送業を始め、様々な場所で幅広く竜車は活用されている。


 そんな竜車だが、ラッセルにとってはこれが初めての乗車体験だった。。

 普段、彼の私生活で遠出することは滅多に無く、移動手段といえば馬車を利用する事がほとんどだ。地竜に乗るという経験は、彼にはあまり縁のないことだった。


「乗り心地はどうだろうか」


 御者はフィルマの部下が務めてくれているようで、彼女はラッセルの正面の席に座り、少しの間を置いてそう声をかけてきた。


「ああ、悪くない」


 速さに長けた竜車だが、その乗り心地は不思議と馬車よりも安定感があった。

 この速度で走れば揺れは酷く、乗り物酔いするだろうと薬を前持って用意していたラッセルだが、それは必要なさそうだであった。


「そうだろう。本音を言えば、飛竜に乗って直接フレユール大森林まで行きたかったのだがな…」


 街中や都市付近で許可なく飛竜を飛ばすことは、規律違反となり懲戒処分も免れない。それは公務であっても同じことだ。

 有事の際であれば話は別だが、今回の件はどう考えても緊急性はなく、飛竜を飛ばす理由もない。そのため、飛竜を自由に飛ばせる区域までは、竜車で赴かなくてはならない。


「一つ…尋ねたいのだが」

「何だろうか」

「何故、今回この様な無理な申し出を引き受けてくれたのだ?」


 アルトはフィルマとは知り合いだと言っていた。だが、知り合いなのはあくまでアルトとフィルマだ。

 全く知らない、会った事もない一般人からのお願いを、どうして彼女は引き受けたのか、それがラッセルには気掛かりであった。


「ああ、そのことか。もちろん世話になっているシャフト家に頼まれたからという理由もあるが……それ以上に、私が貴方の力になりたかったからだ」

「私の力に…? 失礼だが、君と私は何処かで会ったことが?」


 ラッセルの記憶では、過去にフィルマという女性と会った覚えはない。忘れているのだたとしら失礼な事だが、それでも面識は無いはずだと再度記憶を辿る。


「いや、直接の面識はない」


 やはり会ったことはないらしい。

 ラッセルはもう一度自分の記憶を振り返るが、どうしても彼女との接点が見当たらない。


「花咲き病…。十数年前、私の祖母もその病に倒れてな。多くの医者に診てもらったが良くならず、諦めかけていた…。だが、貴方が見つけた特効薬のおかげで、祖母は完治し、天寿を全うすることができた」


 ラッセルは驚きの表情を浮かべ、フィルマの言葉に耳を傾けた。

 アルトに続いて、フィルマの祖母にまで縁があったとは思いもしなかった。


「ヴァルト家を代表して礼を言わしてくれ。祖母を、そしてグレーステの民を病魔から救ってくれたこと……心から感謝している。貴方の功績を我々の一族は決して忘れない……本当にありがとう」


 フィルマは背筋を正し、深々と頭を下げる。その姿勢は、感謝の気持ちがただの言葉でないことを物語っていた。


「それから、御礼の言葉を伝えるのが遅くなったこと、申し訳ない」

「いや、それについて謝る必要はない。そもそも勲章授与式の参加を拒否した私が悪い」


 打ち上げやパーティーといった類の物が苦手なラッセルにとって、自信を称える為の式典などいい迷惑であった。しかし、勲章授与式に参加しなかった理由は他にある。

 それはラッセルの妻ーードンナを花咲き病から救えなかったからだ。


 当時のラッセルは妻を失った後、今まで以上に仕事に明け暮れた。家にも帰らず、娘と顔を合わすことも少なくなり、ただひたすら仕事に執着して大勢の人を救ってきた。

 そうしてラッセルの医者としての名声は世に轟いたが、案の定、彼の性格が災いし、彼を褒め称える者は居なくなった。だが、自分が称えられるべきでない人間だと、そう強く思っているのは他でも無い、ラッセル自身であった。


 どれだけの人を治療しようが、どれだけの富と名声を得ようが、自身は称えられるべきでない。

 本当に救いたかった人を救えず、妻の死に目にすら間に合わなかった自分など、称賛するに値しない。そんなことはラッセルが一番良く理解していた。だからこそ、勲章授与式など出られるはずもなかった。


「本来であれば、貴方の頼み事なら即座に手伝いたかったのだがな…。ただ、私には貴族という肩書きがどうしても付いて回る」


 貴族という立場は、それだけでも責任がある。伯爵家の令嬢となれば尚更だろう。

 彼女の行動一つで、領主の評判が好転することもあれば、地に落ちることもある。その様な(しがらみ)の中では軽率な行動など決してできない。

 加えて、フィルマは騎士という民の模範でなければならい存在でもある。そんな彼女が法を犯せば騎士としての信用、ひいては領主に対しての不信感が募ってしまう。


「儘にならぬが浮世の常とはよく言ったものだ…。我々のような立場では、何事にも建前や口実といった物が必要となる……」


 ラッセルはその言葉をしばらく黙って聞いていたが、やがて答える。


「歯がゆいな…。だが、私は協力をしてくれるだけで、それだけでありがたいのだ。そう気を落とさないでくれ」


 騎士の遠征に一般人が付いて行くというとんでもない願いを聞き入れてくれた時点で、ラッセルは返せないくらいの恩義をフィルマに抱いている。


「優しいのだな…。噂では気の難しい御仁と聞いていたが、所詮はただの噂だな。全く当てにならない」

「……」


 ラッセルはフィルマのその言葉に返答することができなかった。

 過去の自分を振り返れば自身が()()()()、などと口が裂けても言えないからだ。

 妻を失った後、ラッセルは優しさを求めるよりも、むしろ冷徹であることが生き抜くためには必要だと信じ、その感情を捨てた。

 妻を救えなかった悔しさと痛み、それを遠ざけるために仕事に没頭した。

 結果、多くの命を救うことになったが、彼の内面は冷たく、その冷徹さが深まるにつれて、他者との距離がどんどん広がっていった。


「それにしても、いくら公務とはいえここまで私情を挟んでしまって良かったのだろうか」


 気まずくなったラッセルは、話題を変える。


「ああ、構わないさ。元々フレユール大森林は開拓する予定であったからな。ただ、先の件でその計画は先延ばしになってしまった。だからこそ、これは良い機会になる」


 先の件とは、恐らく花咲き病のことを言っているのだろう。あの一件のおかげで、グレーステは手痛い打撃を受けた。

 大森林の開拓どころか、経済は停滞し、一時は都市そのものがなくなるのでは無いかと思われたほどだ。


「それに、復元者エーヴィヒという人物にも興味があるのでな」


 復元者エーヴィヒ。ラッセルの求める人物であり、謎に包まれた存在。

 森の魔女だの、魔獣達の主だの、色んな噂はあるがその真偽の程はどれも不確かなものだ。そもそも、存在するかどうかも怪しい。だが、居てもらわければ困る。


「騎士団の皆には迷惑をかける…」

「迷惑などと……これくらいで恩を返せるのであれば安いものだ。遠慮なく、我々を扱き使ってくれ」


 フィルマの言葉には、真摯な気持ちが込められていた。彼女が言う通り、今やラッセルはグレーステにとって、ただの医者ではない。人々の命を救った恩人として、その存在は計り知れない。だからこそ、フィルマも彼に協力を惜しまないのだろう。



 ※※※



 竜車に揺られて2時間弱、ラッセル達は飛竜を飛ばせる区域に到着した。

 飛竜隊専用の駐屯地、通称――飛竜牧場。

 広大な敷地面積と、恐らく飛竜が格納されているであろう厩舎(きゅうしゃ)は壮大で、牧場と呼ぶにはあまりに陳腐な表情ではないかとラッセルは思った。


「とても快適な乗り心地だった、ありがとう。自己紹介がまだだったな。私はラッセル・ホーウェンと言う。迷惑をかけてすまない」


 ラッセルは竜舎から降り立つと、御者を務めてくれた者を労う。


「竜騎兵隊所属、ディルク・ベックです。迷惑などと仰られないで下さい。貴方の御名声は予々(かねがね)お伺いしております。私も貴方に助けられた身です。ですから、こうして手助けすることができて光栄です」


 目の前の青年――ディルクもまた、ラッセルによって花咲き病から生還した内のひとりであった。

 ラッセルは一瞬、彼の言葉を受け入れることに戸惑いを感じた。

 自分は確かに多くの命を救ってきた。しかし、救えなかった命もある。そして、何より大切だった人――ドンナを救えなかったことが、心の中での大きな重荷となっている。

 ディルクのように感謝してくれる人々がいても、ラッセルはその思いを素直に受け取ることができないのだ。


「ここまでの送迎ご苦労。お前はこのまま通常勤務に戻り、第五棟の地竜の世話を頼む」

「ハッ、承知いたしました! ラッセル殿、貴方のご武運を願っています。それでは――」


 ディルクはフィルマからの指令を受けると、二人に敬礼をし、迅速に駆けて行った。

 騎士という職務特有の機敏な動作や、仕事への切り替えの速さ、ラッセルにはそれらの光景が新鮮に映る。最後にディルクが去る時、ラッセルも思わず敬礼してしまった。


「ーーふふっ」


 普段そんな構えなどしていないためか、その不慣れで不格好なラッセルの敬礼にフィルマは思わず笑みを零す。


「失礼…だが、中々様になっていたぞ」

「慰めは不要だ。鏡など見なくとも、私の敬礼が不格好だったことくらい分かる。しかし……こういうのも悪くないな」


 日常生活で敬礼をする機会など、騎士でもなければあるはずがない。ここではラッセルの知らない世界が広がっており、その全てが刺激的で、年甲斐もなく興奮してしまう。


「ではラッセル殿、我々は飛竜の元へと向かおう」

「ああ」


 厩舎に辿り着くまでの間、ラッセルは飛竜についての話を幾つか聞いた。

 なぜ気性が荒い赤竜をわざわざ用いるのかと質問すると、元々、竜という種自体が人の手で制御できる生物ではなく、赤竜はその中でも比較的育てやすいからという至極単純な話であった。


 他の飛竜種も飼育できるか試したことはあるらしいが、やはり赤竜以外の種は人に懐くことは無かったという。そのため、ここで飼育している種は赤竜と地竜だけなのだ。


「ここでは赤竜を何頭飼育しているのだ?」

「赤子も含めれば25頭だ」


 この牧場ではグレーステのみならず、中央諸国で取り扱っている約半数の飛竜が育てられている。

 25頭と聞くと少なく聞こえるかもしれないが、これでも多い方なのだ。


 人に懐く個体と懐かない個体の差が大きく、どうしても野性に返さなければならない赤竜も生まれてくる。

 更に、赤竜は5年周期でしか子を作らず、基本的に一度の産卵で卵を一つしか産まない。赤竜同士の相性も良くなければならない為、中々人と共生できる個体は生まれないのだそうだ。


「幼体の頃は懐いていたとしても、成長の過程で本能に逆らえない様になってしまう個体もいてな…」


 フィルマの話から、赤竜を飼育することが如何に難しい事なのかが良く伺える。


「赤竜というからには、火を吹いたりもするのだろうか」


 ラッセルの竜に対する浅い知識では、空を飛ぶ竜は皆火を吹くとものと思っている。だが、


「ふふっ…。安心してくれ。火は吹かない」


 赤竜は『竜』と名がついているが、厳密には竜そのものではない。彼らの種を正確に表すなら『竜族』というのが生物学上は正しい。


 ラッセルが頭の中で想像している竜は『龍種』と呼ばれる生物であり、その存在は地竜や赤竜といった竜族とは根本的に種として別物である。

『龍種』は魔力回路が備わり、超常的な能力を持つ存在を一般的には指す。対して、『竜族』には魔力回路は存在せず、ただその姿形が竜種と酷似していることからそう命名されているだけなのだ。


「要するに、赤竜とは大きな蜥蜴(とかげ)に近い存在ということか?」

「その通りだ。より簡潔に言えば、竜族は動物で龍種は魔獣ということだ」

「なるほど…」

「とはいえ、その凶暴さは龍種にも劣らない。もし野生の飛竜に対面することがあれば、すぐ逃げる事を勧める」


 戦時下でない今では飛竜を使っての戦闘はあまり見られないが、その昔、西にある法国との戦争では猛威を振るったらしい。

 今は比較的情勢は落ち着いているため、彼らの仕事はフレユール大森林に住まう魔獣達への牽制、そして資材運搬などが主要となっているとのことだ。


「着いたぞ」


 フィルマが厩舎の扉を開くと、そこには()が居た。


「……」


 燃えるように赤い鱗が特徴的で、縦割れの瞳孔は野性的だが、その奥には知性と理性が備わっているように見える。身の毛もよだつほどの威圧感と、その圧倒的な個の存在感に、ラッセルは開いた口が閉まらない。


「どうだ、凄いだろう」


 フィルマは得意げに言う。


「…ああ」


 ラッセルが赤竜を目にするのは、これが初めてという訳ではない。騎士団の演習で何度かグレーステの上空を飛んでいるのを眺めたことがあった。しかし、遙か上空を飛んでいる赤竜と、間近で対面する赤竜とでは、抱く印象はまるで異なる。


「凄いな…」


 フィルマは、赤竜とは厳密には竜でないと言っていたが、目の前に鎮座するこの生き物は正しく竜そのもので、とても蜥蜴の近縁種とは思えなかった。


「お疲れ様です、フィルマ隊長」


 ラッセルが赤竜を興味深く観察していると、奥の方から白衣を纏った男が現れる。


「飛べそうか?」

「ええ、今の所嫌がる素振りも見せませんし、体調も安定しています。天気も晴れで、飛ばすには絶好の機会でしょう」

「そうか、ご苦労だったな」

「いえ――それより、そちらの方が例の?」

「そうだ」


 白衣の男はラッセルの方に向き直ると、襟元を正して丁寧に挨拶をする。


「初めまして、飛竜隊所属、竜医を務めるカール・ネーレンです」

「ラッセル・ホーウェンだ。私の迷惑に付き合わせてすまない」


 彼に倣いラッセルも挨拶と、謝罪の言葉を述べる。


「迷惑なんてとんでもない…。寧ろ、貴方の力になれて良かったです。13年前…花咲き病から妻を救ってくれたこと、心から感謝しています」


 フィルマ、ディルクと続いて、カールまで花咲き病と縁があるとなると、鈍感なラッセルでも流石に気付く。


「フィルマ殿…もしかしてだが――」

「ああ、今回の遠征隊は、ラッセル殿と縁のある者を選別し隊を編成した。皆、貴方のためならば協力を惜しまない」

「……」


 ラッセルは一瞬、目元が熱を帯びるのを感じた。

 込み上げてくる想いを、どうにか飲み込む。


「ありがとう…本当に……ありがとう」


 ラッセルは心からの感謝を伝えた。

 しかし、それ以上、言葉が続かなかった。


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