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可愛い仕返しをしました

私の“皇后”としての発言になぜかお父様は以外は驚いている。


「本気か?」


陛下もだ。


「この場で冗談を言う必要がありますか?」


心底不思議だ。

なぜ本気かと問う?


「……いや」


なぜそんな探るような目で私を見るの?


それにしても、おかしなもの。


以前は陛下が私を見てくださることを切に願っていた。

そしていまそれが叶っているのに、感じるのは不快な鬱陶しさだけ。


「なぜ驚くのです?」


私の片思いは周知のこと、それが皆が私を嘲る理由だった。


でももう私はいない。



「第二皇子が早急に必要であることは明白、先ほどの発言はそれゆえでしょう、キティル侯爵?」


疑問に思っていることが分かるように私は首を傾げてみせる。


「も、もちろんです」

「よろしい。第一皇子と年が離れないよう第2皇子は2年以内に誕生してほしいですわね。そのために必要な皇妃は、3名以上が望ましいですわ」


隣から「皇后?」と戸惑う声が聞こえたが無視する。その皇后としての発言なのだから文句はないはず。


「3名も? 皇妃様は御一人迎えれば十分では?」

「そ、そうですね」


キティル侯爵配下の伯爵たちが同意の声をあげ、キティル侯爵ともども『分かるだろう?』という目を私に向けてくるが気づかない振りをしてさしあげる。


その目も、皇后に向けるものではない。


ただ今はその論点ではないから、小娘扱いを不敬だと咎めないことをありがたく思ってほしい。


それにしてもキティル侯爵はまだご息女を皇妃にすることを諦めていなかったのか。


彼女の年齢は私より1つか2つ上、私が陛下の婚約者になったときから正常化に戻りつつあった社交界において彼女は完全にいき遅れ。 


娘を皇妃にしたいなら、そして彼女自身も皇妃になりたいなら、父娘揃って皇后に喧嘩を売るのはよくなかった。


なぜなら皇妃を皇帝に薦めるのは皇后の仕事(義務)であり、薦める以上は皇妃候補の選出も皇后の仕事となる。


こうも先が読めないからキティル侯爵はお父様に勝てないのだ。


だからそんな阿呆なことも言う。


「3人以上は多いと? 1人で十分と本気で言っているのですか?」

「も、もちろんです」


「侯爵、女性が妊娠できる機会は月に1回、それも数日間です。全日で房事を行っても陛下の子を孕む確率は低く、それが我々の望む皇子となるの確率はその半分」


私の発言に「分かる」と頷いている方々、お父様を筆頭に彼ら社交界でも評判のいい方々。“何を言っているのか分からない”という顔をしている方々はその逆の方々。


「皇妃を増やして確率を上げるしかないのです、簡単な算術ですわ」


少々発言がはしたないかもしれないが、私を石女だと蔑み、男性が喜ぶ閨の作法などと卑猥なことを語ってきた者たちに気を使う必要はない。


「この先の2年、1人の皇妃が産めるのはせいぜい1人。懐妊の機会は、入宮準備を考えれば6回あるかないか。キティル侯爵、それでも1人で十分と言うの?」


皇妃1人に帝国の命運を懸けるのか、そんな問いを込めてキティル侯爵を見る。


「1人など……こ、皇后陛下がいらっしゃるでは……」

「あら、私は石女なのでしょう?」



ここで私を数に入れるのは調子がよ過ぎやしませんか?




石女と自称するなんて、品のことはさておき、皇后としては可愛い仕返しだと思う。


そしていま、お父様の怒気混じりの圧で顔色が悪い方々。

彼らは全員自業自得、同情はしない。


見渡す限り顔色の悪い方々の向こうで手が上がった……ザイツェ伯爵?


凍りついていた会議場が騒めき始める。


それはそう。


ナターシャの後見になった伯爵の顔を立てて参加を許しただけ。末席にいる彼が手を挙げるなど前代未聞の行動でしかない。


「ザイツェ伯爵」


前代未聞であれ、会議の参加者である以上は発言を許可せざるを得ない。陛下が許可を出したのはそんなところだろう。


不作法であることに変わりはないのだが、陛下の許可に光栄とばかりに大仰な礼をするザイツェ伯爵は分かっているのか。



「皇妃候補者のリストにはありませんが、ポポフ女男爵を皇妃に迎えてはいかがでしょうか」


ザイツェ伯爵は、空気を読まない勇者なのか、それとも空気を読めない愚者なのか。


愚者だろうな。

彼はこの議題の主旨が分かっていない。


ナターシャ(没落した子爵家の娘)の産んだミハイル殿下では皇太子になれないから、いまこうして皇太子を産める皇妃を選出しようとしているというのに。



「ザイツェ伯爵、貴殿は帝国語を理解できないのか?」

「ひっ」


お父様の冷たい問いに伯爵は悲鳴を上げた……やはり何も分かっていない愚者、ただの阿呆か。


「ミハイル殿下では皇太子になれない。殿下の才覚が問題ではない、彼の生母がポポフ女男爵だという瑕疵のせいだ」



その瑕疵は国に混乱を招き、他国に付け入る隙を与える。


生母とその実家は皇子・皇女の後ろ盾であり、皇后はそれ故に未来の皇帝の後ろ盾に相応しい家の娘が選ばれる。万が一のとき、他の貴族たちを黙らせて皇太子を守れなければいけないから。


しかし資格と皇帝の御子を授かれるかは別の話で、皇后が授からない場合に代わって皇太子を産むのが皇妃の役割。


だから皇妃は皇后が認めた者、家格と本人の才覚、そして皇后を立てることができる性格でなければならない。



「いわばポポフ女男爵は皇帝陛下の愛欲を満たすだけの存在。陛下、彼女を召し抱えるならば税金ではなくご自身の私産でお願いいたします」


税金ではなく私産で養え、お父様は宰相かつ皇后の父親としての立場で「ナターシャは愛妾としてしか認めない」と発言なさり、陛下はそれに黙ってうなずいた。


「し、しかし、愛妾など、ポポフ女男爵はミハイル第一皇子殿下の母君ですぞ」


それなのに、なぜこの男は口を噤まないのか。

理解に苦しむ。


「貴殿は阿呆か」


……とうとう阿呆って言っちゃった。


書記官の手は、一瞬止まったもののまた動いている。議事録に「阿呆」って書いたのだろうか。



「だからこうして困ったことになっているんだろうが!」



後の世の皇帝がこの議事録を読んでご自分の私生活を見直してくれればいいと思う。

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