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嘘が暴かれました

この御子息が登場するまでロシャーナ帝国の次期皇太子は空位だった。


皇太子は皇帝の息子という意味ではなく次に皇帝になる者。皇帝が勝手に立てることは許されず、皇太子の素質について議会で話しあわれてから立太子する。


陛下は皇帝の嫡子で長男、健康で優秀な彼の立太子はスムーズで、ナターシャを選んだことで騒ぎは起こしたが皇太子を挿げ替えるという案は出なかった。


そんな陛下の皇太子の座が一度だけ揺らいだことがある。


私が成人してまもなくの頃に、陛下が大規模なテロの被害に遭い、歩くことができなくなってしまった。




当時城下を視察していた陛下は「助けて」という叫び声で足を止め、相手がやせ細った女性ということで騎士共々油断して彼女の接近を許し、直ぐに近衛騎士がとめに入ったものの女性の体は陛下のすぐそばで爆発してしまった。


騎士数名は即死で、陛下を含む大勢が爆炎で吹き飛ばされて重傷を負った。あとからの調査で分かったことでは、その女性は体内にいくつも魔石を入れており、それが暴発したとのこと。


治癒魔法を使う魔導士たちが現場に急行して陛下たちの治療にあたったが、千切れかけた脚は治療できる範囲を超えていたため陛下は自力で歩くことができなくなってしまった。


この事態に貴族は動揺した。


先帝陛下の男児は陛下と年の離れた陛下の異母弟殿下の御二方。異母弟殿下はまだ幼く、陛下のハトコにあたるセルゲイ公子が新たな皇太子になると噂がたった。


先帝陛下はそれをお認めにならなかったが、貴族たちはセルゲイ公子を阿るようになった。



足が動かないこと。

皇帝になるという将来がなくなりそうなこと。


落ち込む陛下に止めを刺したのがナターシャの悲報。


伯母のところに向かっていたナターシャを乗せた馬車が、脇から飛び出してきた狐に驚いて暴走して崖から落ちた。ナターシャの死体は見つからなかったが、状況から彼女の生は絶望的だった。



生きる気力を陛下は生きる気力を失くし、カーテンを閉めたままの暗い部屋でぼんやりと、食事もろくにとらずに生きていた。


それをお父様から聞いて、私は無性に腹が立った。


勝手な話だけれど、憧れた初恋の男性がそんな状態になっていることが許せなかった。



憤った状態で、私は陛下の御見舞いにいった。


未婚の令嬢が男性の寝室にいくなどあり得ないのだが、ペトロフの直系かつお兄様が陛下の最側近というコネを使ってお兄様に連れていっていただいた。


最初に目に入ったのは瘦せ細り、生気のない陛下の御姿。

その姿に心が痛みはしたもの、陛下の悲しみに同調する気はなく、私は大きく息を吸った。



「何をウジウジしているのですか!!」


それまでの人生で一番大きな声を出したと思うし、お見舞いにいったはずなのに突然喝を入れ出した私にお兄様は焦っていらっしゃった。


でも私はそれに構わず、勢いにまかせてでお兄様と周りにいた陛下の側近および使用人たちを一列に並べた。


「殿下を甘やかさない!! 諦めるのはやれるだけやってみたあとです!!」


喉が枯れて痛みだすまで支持と喝を繰り返し、2時間ほどたった頃には皆に一体感が生まれていた。初めて大声を出し続けたから腹筋が震えていたけれど我慢した。


その後は週に数回お見舞いという名目で喝を入れにいき、学校とそれ以外の時間の全てはサルーナ王国の人に治療法について相談して回った。



サルーナ王国は女神メディキナの加護で医学や薬学が発達しており、私は当時注目され始めたばかりの機能回復訓練に興味をもった。


お父様にお願いし、サルーナ王国から機能回復訓練の有用性を提唱したエブラ教授をお招きし、彼から訓練方法を学びつつ精神科医である彼から心のケアについても学んだ。


以前から続けていた治癒魔法はそのまま継続、それと並行して機能回復訓練を行うことで弱った筋肉に力を戻すことで少しずつではあるけれど陛下の体の機能は回復していった。



事件から2年、陛下は杖を使わずに歩けるようになっていた。


私の19回目の誕生日、陛下がご自分で大きなケーキを持って歩いてきた。


その姿に感動し、蝋燭の火を吹き消す前に大泣きしてしまったのは恥ずかしい思い出だ。





「嘘というのは時限発火装置だな」

「お父様?」


「いずれバレる。完璧はあり得ないということだな」


嘘、それはナターシャの馬車の事故。


あれはお父様が作り上げた嘘で、ナターシャは「寝たきりになった陛下に未来はない」と言って城を出て姿を消した。


お父様はそれを把握していたし、皇太子の婚約者の逃走など醜聞でしかないが、それを分かっていても積極的に止める気はなく「男と逃げた」と先帝陛下にしれっと報告なさった。


そんなお父様とは対照的に先帝陛下は焦った。


皇帝ではなく父親として、ナターシャを死んだことにしてほしいとお父様に泣きついて、お願いを断れないお父様はナターシャの死を作った。


ナターシャの墓まで作り、陛下は歩けるようになるとその墓に毎月必ず足を運んでいて、つい先日の月命日にも墓参りをしていた。




そこまで陛下に思われていたナターシャ。


ナターシャの産んだ「陛下の御子息」を連れてきたのは、そのナターシャ本人だった。



あの瞬間、お父様の嘘は爆発した。

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