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貴婦人がまた来た(ニコライ)

「ポポフ女男爵、もう一度聞く……「お邪魔しまーす」……え?」


気の抜けるほど明るい声。


「カリーナ様!?」


牢の入口に見ればカリーナ様がいた……帰ったのでは?


……一度は帰ったようだ。

カリーナ様の後ろには御夫君のドウシャ殿がいる。



「帝国語を操る異世界人がどうしてここに?」


ペトロフ侯爵が唖然としている。


この人を唖然とさせるとは……帝国語を操る異世界人、唖然としていても的確な表現だ。


「帝都の歴女の集まりに参加していたの、そこで、ちょーっと興味深いお話を聞いたから教えてあげようと思って」


興味深い話?


「ありがとうございます。しかし、カリーナ様が北の塔まで来られなくても。侍従の誰かを寄越して応接室でお待ちいただきだければ……」


「この貴賓牢は歴史のあちこちに登場するから、ついでに聖地巡礼をしようと思って。そしたらこの子もいるじゃない、私ったら運がいいわ」


この子……ポポフ女男爵?


「初めましてじゃないけれど、一応自己紹介させてもらうわね。先代皇帝の皇妃カリーナです。いままで何度か内宮でお会いしたけれど、どうして気づかなかったのかしらあ」


カリーナ様がクリームを舐めた猫のような表情をなさる。


「その首飾り、リュドミラの聖魔具ね」



ポポフ女男爵は咄嗟に両手で首飾りを隠したが、その仕草がカリーナ様の言葉を肯定していた。


「……リュドミラの聖魔具」


聖魔具とは神や精霊が己の力を込めた物で、貴重品のように思えるが神々は気紛れなので世界中のあちこちにある。


リュドミラといえば愛欲の女神で、その力は魅了。


歴史上数多いる傾国の美女の半数がリュドミラの聖魔具を持っていたと言われているし、世界中で近年頻発している貴族子女らの婚約破棄及び離婚の原因もリュドミラの聖魔具が原因と言われている。


そのためリュドミラの聖魔具は世界中で危険物扱いとなっており、所有者は直ちに国に提出、隠し持っていた場合はかなり重い罰を受ける……のだが、見ただけでは分からないので所有者の善意に期待して回収しているのが現状だ。


「よく分かりましたね」

「歴女には聖魔具マニアが多いのよ。特に危険指定されたものなんてマニア垂涎よ。私も涎が出そうだわ」


念のためとドウシャ殿が差し出したハンカチをカリーナ様が礼を言ってい受け取る。


「そんなものぶら下げて城内を闊歩していたのが運の尽き、歴女を見つけたら周りに10人はいると思いなさい」


……完全にカリーナ様の独断場だな。


「1人いたら10人……黒光りする例の虫みたいだな」

「ヴィクトール、お前まだ虫嫌いなのか?」

「これは治るものではない」


……ペトロフ侯爵、虫が嫌いだったのか。幼い頃に庭で獲った虫のコレクションを自慢しによく見せにいったが、悪いことをしたな。


「そんなの知らない、そんなことあの女官は言っていなかった」


女官。


「まあ、危険物扱いは半年前だし。田舎娘が知らないのは仕方がないことよね」

「女官は地方の領主の娘だって言っていたけど、私は違うわ。私は帝都で生まれて帝都で育ったもの」


その女官は地方領主の娘。


「その家はいまはもうないって聞いたわよ。それで宮も追い出されると聞いたけれど、この先どうなさるの? まあ、陛下に頭を下げればもう1回くらいチャンスはあるかもしれないけれど」


カリーナ様?


「もういいわよ、こんな男!」



「“皇帝”をこんな男扱い……まあ、分からなくもないか」

「私を見ないでくれるかい?」

「分からなくもないか」

「二度言った!!」


父上たち、煩い。



「なんなの、みんなしてアナスタシア、アナスタシア」

「みんな?」


「あいつよ、…………っ!!」


ポポフ女男爵がパクパクと開いたものの声にならず、彼女が喉を抑えた瞬間に足元が光った。


魔法陣!?


黒い茨が大量に飛び出てきてポポフ女男爵を包み込もうとする。


契約魔法!



「「下がってください!」」


俺の前にペトロフ侯爵とドウシャ殿が立つ。そして氷の刃と剣がすごい速度で茨を切っていく光景に呆気にとられていると俺の脇からカリーナ様が飛び出した。


「旦那様!」

「はい。侯爵、あとはお願いします」


飛びついたカリーナ様を抱き上げて、高く跳躍するとドウシャ殿は魔法陣の端にカリーナ様を降ろして今度は茨からカリーナ様を守る。


「えーい」


気が抜けそうな声と同時にカリーナ様が魔法陣にナイフを突き立てると茨が消えた。魔法陣は消え、中心があった場所にポポフ女男爵が倒れた。



「瀕死ですが、死んではいません。しかし契約魔法を破ったことで神罰が下りました。半年は目覚めないでしょうね」


遠くから「宰相閣下」とか「旦那様」とかいう人の声がして、それもどんどん近づいてくる。


侯爵のほうを見ると心当たりはないらしく、首を横に振った。



「旦那様!」


飛び込んできたのは……オリガ?

続いてペトロフ家の家紋を付けたペトロフの騎士たちがなだれ込んでくる。


「どうした?」


侯爵の声にオリガが青い顔をして口を開いた。


「皇后陛下が奥宮から姿を消しました!」

皇后アナスタシア視点に戻ります。

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