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お妃様たちを歓迎する

奥宮の開放を願い出ると、陛下は奥宮を運営するための予算案と共に承認してくださった。

 

「奥宮について、もう噂されているみたいね」

「特に緘口令は敷いておりませんので」


人の口には戸が立てられない、特に奥宮の開放という国の大きな変化ならばなおさらで、噂が広がるのを止めるほど面倒で無駄なものはない。


皇妃候補になれない理由を問い詰めてくる方々の相手をしたほうが楽。


「これで皇妃候補の家たちも前向きになってくれればいいけれど」


皇妃候補として選ばれた家には有象無象が群がるだろうけれど、どの当主も適当に裁くだけの手腕はあるはず。それができなかったり、人に(おもね)られて増長するようならば、私の見る目がなかったということで皇妃候補から降ろすつもりだ。




「シエル宮は意外ときれいね」

「先帝陛下が譲位なさるまで使われていましたし、ルチル宮に比べれば歴史がかなり浅いですからね」


奥宮の中にはルチル宮とシエル宮があり、シエル宮は皇后だけが生活する宮。3代前の皇帝であるグレンスキー皇帝がお作りになった。



グレンスキー皇帝と、彼が「真実の愛」と言って寵愛した愛妾マリアは平民向けの恋愛小説によく出てくる。


グレンスキー皇帝にはのちに彼の皇后となる婚約者のソフィーナ様がいらっしゃった、のちに愛妾となる「真実の愛」の子爵令嬢マリアと学院で出会い寵愛した。


グレンスキー皇帝は一途だと平民の間では人気があるが、貴族の間では迷惑な皇帝と認識されている。


何しろグレンスキー皇帝は「皇后とは愛のない結婚で愛妾マリアとの間に子は作らない」と宣言した。実際に彼の子どもの全ての母は愛妾マリアだ。


さらに彼は本来なら離宮が与えられ皇帝の私財で囲われる立場の愛妾を“皇太子の生母”という特例を持って奥宮に住まわせた。そして愛妾マリアが望んだのは皇后の部屋であった中央にある大きな部屋「シエルの間」。


愛妾マリアの願いを叶えるため、グレンスキー皇帝はシエル宮を作り、シエルの間をルチルの間に名前を改めさせて愛妾を住まわせた。


グレンスキー皇帝が崩御されたあとに皇帝になったペトロフ皇帝、陛下のお爺様にあたる方の時代、このロシャーナ帝国は愛妾マリアの専横とペトロフ皇帝の力不足で国政が荒れた。


皇后ソフィーナはグレンスキー皇帝が崩御される前に崩御されていたため、愛妾マリアの我侭を諫めるのは専らペトロフ家の役割だったとペトロフ家の歴史書にはお爺様の字で書かれていた。


ペトロフ皇帝は生母の家格と本人の才覚、他にも運だとかいろいろなものが足りない皇帝だった。彼は国内でも国外でも舐められ、国は荒れて多くの貴族が他国との戦争や国内の政争で身内を失くしている。


ペトロフ皇帝と同様に色々足りないミハイル殿下が皇太子と認められないのはこの歴史が原因。


……だからこそ、あの時代を知るお爺様がナターシャを陛下の后に押した理由が分からないのだけど。



「グレンスキー皇帝はよほど皇后ソフィーナ様を疎んじていらっしゃったのね」


皇后ソフィーナ様のためにグレンスキー皇帝が作ったシエル宮は内宮の西の端にあり、外宮の建物が影になるせいで暗くなるのが早い。


皇帝が自分の真実の愛の邪魔者だと感じていたこと、不遇の皇后が想像できてしまう。



「でも、南側に広がるこの大きな庭園は見事ではありませんか?」


ソフィーナ様は花好きとして知られており、あの時代に作られた公園が帝都のあちこちにある。グレンスキー皇帝はこの庭の造園にかなりの費用をかけた、その記録が国の記録として残っている。


愛さず、子も産ませず、飼い殺しにして薄暗い宮に追いやったソフィーナ様()への償いだったのだろうか。


先の皇后様同様に私もあまり花には興味はないが、それでも大きな温室に入ると心が躍った。


温室は温度を一定に保つ魔道具が使われていて、魔導灯がいくつもあるため夜でも昼と変わらない明るさの場所だという。


ソフィーナ様はこの温室が特にお好きで、シエル宮で過ごされる時間のほとんどはこの温室にいたといっても過言ではないらしい。



「皇后陛下」


呼ばれて振りむくと、女官長と先の女官長がいた。


元女官長は年を召して杖をついてはいるが背筋が伸びて凛としており、普段は城の奥にある邸宅で暮らしている。


女官長という立場は色々な機密に関与するため、退官しても城を出ることが許されず与えられた館で一生を過ごす。国に殉じるという意味では皇后と同じ、それができる者しか女官長にはなれない。


「今日はありがとう」

「いいえ、これが私の女官長としての最後の仕事になりますので」


先の女官長の目をジッと見て頷き、私は女官長と元女官長以外を全員外に出して近衛隊長に入口の監視をさせた。


これから私と女官長は秘密通路を元女官長から教えてもらう。緊急時に皇族が逃げる秘密通路は歴代の女官長に口伝で伝えられるもので、女官長はすでに知っていたが聞いた当時は奥宮が閉じていたため実際に見るのは初めて。そのため元女官長に同行してもらった。



「秘密通路があるのはシエル宮だけ?」

「いまはそうです。以前はルチル宮にもありましたが、シエルの間がルチルの間に代わるときに埋められたと聞いております」


いくらグレンスキー皇帝でもそこまで惚けてはいなかったようで安心した。

次はニコライ視点になります。

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