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第三章 僕の

また夢を見た。お花畑にいる私。川を挟んで向こうには病気で亡くなったお母さん。向こう岸に行こうとする。


お母さん。


「まだ、こちらに来てはダメよ。戻りなさい。」


なぜ。やっと会えたというのに。私はもう十分苦しんだ。戻ったって誰もいない。もう、寂しいのは嫌なの。


「戻りなさい。大丈夫。まだあなたには時間がある。」


なぜ。


「…ちゃん、起きて…結ちゃん!」


ハッ。


目が覚めたときにはもう遅い。私は涙を流していた。


小坂、先生?


泣いて、る…。


私、意識を…。


「あぁ、良かった。目を覚ましたんだね。」


先生は泣いている。


なんで、なんでこの人は、こんな私のために涙を流してくれるんだろう。


胸がキュッとなる。


「ごめ、なさ…」


先生が体を抱きしめてくる。


「もう謝らなくていい。これからは俺が守るから。」


「好きだ。」


え…?


「如月結さん、僕と付き合ってくれませんか?」


いきなりで頭がパニックになる。


小坂先生が、私を好き…?


私は、どうしたらいいだろう。


「返事はいつでもいい。ただ、そばにいさせて。」


先生…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼女が目を覚ました。心停止を起こしてから5日が経ってからのことだった。


感極まった俺は、彼女に告白した。


「好きだ。」


ただ、戸惑わせてしまったかもしれない。


いきなりのことだ。無理もない。自分でも、あのタイミングで言うべきではなかっただろうと後悔している。


問診の時間か。いつもより緊張する。仕方ない。行こう。






「結ちゃん、入るよ。」


「あ、小坂先生。」


勉強道具を片付ける彼女。


「最初胸の音聞かせてね。」


聴診器を当てる。


「うん。心拍も音も異常なし。サチュレーションも安定しているね。これなら大丈夫そうだ。」


彼女を見る。


俯いている彼女。


「結ちゃん?」


彼女の顔を覗く。


頬を赤らめている。


え。


「あ、ごめんなさい。なんでもないです。」


「なんでもないわけないだろ。熱でも…」


額に触れようとする。


「だ、大丈夫ですから。」


「そ、そっか…。」


さっきから目を合わせてくれない。


ついに嫌われてしまったのかもしれない。


うーん。


「問診も終わったし、また何かあったらナースコール押してね。じゃあまた後で。」


「あ…!」


「ん?」


「いえ…なんでもありません。」


「そっか。また後でね。」


部屋を出る。一体どうしたんだろう…?あまり気にしないことだな。さて次は…榊原先生のところに行こう。『あの件』で…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


やってしまった。変なふうに思われたかもしれない。


小坂先生のことを避けてしまった。


『あの時』から、私の胸のドキドキは止まらなくなった。


痛いとか動悸とかそういう部類のものではなくて。


問診も、心臓がどくどくなっているのを気付かれないように平常心を保とうとしていた。


でも、結果的には先生の目すら見れなくて、違和感を与えてしまった。


恥ずかしいな…。


私、小坂先生のこと好きなのかな…?


そこに、遙ちゃんが来た。


「結ちゃん、今大丈夫?」


「うん。大丈夫だよ。」


「目を覚ましてくれて良かったわ。調子はどう?」


「今は安定しているよ。色々心配させちゃってごめんね。」


「そんな!謝ることなんてないわ。私があの時一緒に居られたら…。」


遙ちゃん、自分を責めてる…?


「遙ちゃんは何も悪くないよ?ほら、今こんなにピンピンしている!」


遙ちゃんが顔を上げ、含みのある笑顔を浮かべる。


「ありがとう。私がしっかりしなきゃね。」


「そうだよ!」


「うん。これからのこと考えるわ。ありがとね、結ちゃん。」


「いいえ。そういえば私、あの時ナースコール押さなかったんだけど、誰が気付いてくれたの?」


「小坂先生よ。診察をしようと思ったところを、倒れている結ちゃんがいて、先生がナースコールを押してくださったの。」


「そっか…小坂先生が…。」


後でお礼を言わなきゃね。


「ところで、さっきは一人で何を考えていたの?」


ギクッ。


「あはは…実はね、小坂先生に告白されたの。」


「え!?あの小坂先生が!?」


「そうなの。私もびっくりしちゃった。」


「返事、どうするの?」


「まだ迷ってて…。さっき問診に来ていたんだけど、異様にドキドキしちゃって。」


「あら?もしかして~結ちゃん、小坂先生のこと好きなの?」


ニヤつきながら言う彼女。


「うーん。確かに、ドキドキしちゃうのは好き…ってことなのかな。」


「うん。そうだと思うわ。あ、でもね…」


「ん?」


「結ちゃんの気持ちに正直になる。それだけは忘れないで。」


自分の気持ちに正直に…。


…うん。やっと決心がついた。


「やっぱり私、小坂先生が好き。ちゃんと返事してくるね。」


「うん。やっと自分の気持ちに素直になれたわね。」


ハッとした。そうだ。これまでの私は希望を見捨てて、悲しんでばかりいた。やっと自分の気持ちに気付けたんだ。


「ありがとう、遙ちゃん。私、伝えてくる!」


「うん。行ってらっしゃい!」


小坂先生に今すぐ会いたい。その一心で部屋を出る。待ってて。小坂先生。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結ちゃん、嬉しそうにしていたわ。良かった。


私も頑張らないとね。


患者さんたちを支えられるように。


さて、ナースステーションに戻りましょう。

まだ仕事が残っているものね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あ、いた。


小坂先、…!


あれ?なんだか先生…。


そこには小坂先生と榊原先生がいた。


二人でなにか話し合っているようだ。


私はとっさに物陰に隠れる。


会話が聞こえてくる。


!?


そこで、衝撃の事実を知る。


私はその場を離れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、榊原先生。お疲れ様です。」


「小坂先生、お疲れ様です。」


「今少しいいですか?」


「ええ、如月さんのことですよね。」


「今後、どうしますか?」


「心不全も悪化していますし、先日は心停止をおこして、なかなか目を覚まさなかったのでね…。移植を考えなければなりませんね。」


「やはり、そうですよね…。」


「小坂先生。」


「はい。」


「正直、彼女の余命は持ってあと3ヶ月だと思います。思っていた以上に状況は悪化している。」


そうか…。


「私も最善を尽くしますが、どうなるか分かりません。」


「…分かりました。僕もできるだけサポートします。」


「はい。よろしくお願いします。」


「では、失礼します。」


お辞儀をして俺は歩き出した。


今は彼女のことを精神的にも身体的にもできるだけ支えてあげなければ。


一生の悔いが、残らないように。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…。


余命、3ヶ月…?


理解が追いつかない。


私…


どうなるの…?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日_____。


「結ちゃん、入るよ」


「…。」


「今日は榊原先生にも来てもらったんだ。少し話があってね。」


「心臓移植を受けませんか?」


「…。」


「結ちゃん…?」


「あ、ごめんなさい。」


「大丈夫?なにか心配なことでもあるんだったら…」


「いえ、大丈夫です。受けます。」


今日の彼女はやけに神妙な面持ちをしていた。


なにかあったんだろうか。


焦っているようにも見える。


「じゃあ、契約書にサインしてもらえるかな?決断は今すぐでなくてもいいんだけど…」


「いえ、受けます。お気遣いありがとうございます。もう大丈夫です。」


「そう…?じゃあ、よろしくお願いします。」


紙を渡す。


同意書にサインする彼女。


「じゃあ、私はこれで。」


部屋を出ていく榊原先生。


心配になった俺は、彼女にもう一度同じことを聞く。


「大丈夫?何かあった?」


「…」


答えてくれない。


「俺にできることならなんでもするよ?」


「…3ヶ月。」


え…。


「余命3ヶ月というのは、本当ですか?」


か細い声で訴えかけるかのように聞いてくる彼女。


病棟で話しているのが聞こえてしまったのだろうか。


「結ちゃん、俺は…」


「もう、タイムリミットが近づいているってことですよね?」


「あ…。」


目に涙を溜める彼女。





ぐすっ。ぐすっ。


「結ちゃん、泣かないで?また苦しくなっちゃうよ?大丈夫だから。俺が必ず助けるから…。」


なかなか泣き止まない彼女。


背中をさする。


「大丈夫。結ちゃんは必ず俺が助けるから。なにも恐れることはないよ。」


少し落ち着いてきたかな?


「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」


「大丈夫だよ。よしよし。」













「もう大丈夫かな?」


「はい。すみません、泣いてしまって。」


「いいよ。あの話…聞こえちゃっていたんだな。気付けなくてごめんな。不安な思い抱かせちゃって。」


「先生は何も悪くありません。聞こえてしまったのも偶然ですし。」


「結ちゃんは優しいな。ありがとう。」


「はい。」


また下を向く彼女。


「あの…」


「うん?」


「先日の告白の返事なのですが…」



「はい。よろしくお願いします。」


「ほんとに!?いいの?」


「小坂先生だからいいんです。」


「すごく嬉しい。ありがとな。これからは彼氏彼女として、よろしくお願いします。」


「はい。」


ふふっ。朗らかな笑顔を向けてくる俺の彼女。俺も自然と笑顔になる。


「診察してもいい?」


「はい。」










「じゃあまた後で来るから。」


「はい。また。」


部屋を出た途端にガッツポーズをしてしまった。とても嬉しい気持ちと、絶対に守ってみせるという強い意志を持って、俺は歩みを進めた。

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