この恋心は、秘めておいた方がいい
クラヴェル伯爵から面会の申し込み?
ああ……会わずとも用件は分かる。ブランシュ嬢への求婚の断りだろう。
当たり前の話だ。
俺のように年の離れた、しかも既婚の男でなくとも、若く優秀な求婚者は山ほどいるだろうからな。
それが分かっていて、なぜ求婚したのかって?
まあそう言うな。
一目惚れだったんだ。
夜会で初めてブランシュ嬢に出会って……あの麗しく嫋やかな姿に、年甲斐もなく夢中になってしまった。
ブランシュ嬢に婚約者がいると聞いて諦めたつもりだったんだが、婚約を解消したと聞いて気持ちが抑えられなくなった。
元婚約者は、随分とブランシュ嬢をないがしろにしていたというじゃないか。そんな男より俺の方が彼女を幸せに出来る!と暴走してしまったんだ。
ああ、いや。そこまでしなくとも良い。お前の言う通り、王族の権限を使えば無理矢理娶ることも出来るだろう。
だがブランシュ嬢が望んで嫁いでくれるならともかく、彼女の意志に反してまで自分の物にしようとは思わない。
そこまで傲慢ではないよ。
はあ……。
まさかこの俺が、あんな年下の娘へ入れ込んでしまうとは予想だにしなかった。人生とは驚きに満ちているものだ。
ん?ああ、ブランシュ嬢の姉も麗しい女性だったな。カロリーヌといったか。
カロリーヌ嬢の方がいい?あの気の強そうなところがそそる?
お前は昔から気の強いご令嬢が好みだったものな。細君もなかなか勝気な女性だしな。
そういや彼女は元気か。
相変わらず尻に敷かれている?ははは。幸せそうでなによりだ。
ん?俺の妻に?
ああ、無論だ。彼女には、クラヴェル伯爵へ打診する前に話したよ。側室を迎えるなら正妻に話を通すのが筋だろう。
君のことを正妻として大切に扱うことに代わりはないとも説明した。
どうぞ、お心のままにと言ってくれたぞ。
……そうだな。お前の言うとおりだ。
微笑んではいたけれど、心中穏やかではなかったかもしれない。悪いことをした。
陛下にも窘められてしまったよ。良い歳をして何をしてるんだ、ってね。
もうすっぱり諦めるつもりだ。
今は、ブランシュ嬢が良い相手と縁づいて幸せになることを願っている。
妻にも謝らないとな。長年俺を支えてくれたのは彼女なのだから……。
ブランシュ嬢の事は、一時の気の迷いだったとでも伝えておこう。
恋なんてのは一過性の熱病のようなものだ。いずれ、ブランシュ嬢への気持ちも消え去るさ。
それまで、この想いは胸へ秘めておくことにしよう。