妻の言うことには、従っておいた方がいい
ああ……今日のブランシュは輝くばかりの美しさだな。
カロリーヌも勿論美しかったが、今の彼女はそれ以上だ。まるで現世に降臨した女神のようじゃないか。
いかんな。どうも最近、涙脆くて。
なに、歳だと?
そんなことは無いと言いたいところだが、娘が二人とも嫁いだのだ。我々はもう年寄りだな。ははは。
それにしても見ろ、あの嬉しそうな笑顔……。この縁談がまとまって本当に良かった。マリウス君ならきっと娘を幸せにしてくれる。
ヴィトリーの連中か?それなら心配ない。奴らは我が家への侵入行為で取り調べの真っ最中だから、ここへ来る暇はないだろう。
あの調子だと結婚式にも押しかけて騒ぎを起こしそうだからな。わざと泳がせておいて、昨日のタイミングで衛兵に捕らえて貰ったのだ。マリウス君の発案でね。
しかし……本当に親子そろって傍迷惑な連中だ。
今となっては、なぜヴィトリーの若造と婚約など結ばせてしまったのか、後悔してもし足りない。
ヴィトリー伯爵は有能な人物だが、優秀な男であっても良き夫、良き父親になれるというわけではないのだな。
妻子を切り捨てるならば、伯爵には救いの道を用意しても良いと宰相閣下は仰っていたが。
うん?いや、そんなに甘い方ではないよ。使い捨ての駒としてならば、使い道もあるだろうという話さ。
それにどっちにしろ、伯爵にそのつもりは無いらしい。ならばあの悪妻と共に沈んでいって貰うほか無いな。
だから言っただろうって?ああ、分かった分かった。俺が悪かったよ。
君は最初から、あの婚約に反対していたものな。
女性にしか分からないカンというやつか?君の言うことに耳を傾けるべきだった。
機嫌を直してくれ。
娘の新しい門出なんだ。母親の君が、そんな仏頂面でどうする。今は娘の晴れ姿に集中しようじゃないか。
……おや、カロリーヌも泣いているようだ。勝気なあの娘が涙を流すとは珍しい。
カロリーヌもブランシュの事で心を痛めていたからな。感慨はひとしおなのだろう。
今回の件ではカロリーヌもよく立ち回ってくれた。まだまだ小娘だと思っていたが、いつの間にか次期伯爵夫人として申し分ない淑女になっていたんだなあ。婿に来てくれたクロード君も優秀だし、この分だと早めに跡目を譲っても良さそうだ。
そうしたら二人でゆっくりしようじゃないか。
うんうん、旅行もいいな。君の好きなところへ連れて行くよ。
ああ、いや。詫びというわけでは……。
まあいいか。君の希望に従うよ。その方がきっと、間違いがないだろうからな。